未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
112

私の前に道はない。ただ草があるだけ!

野草屋さんの“つちころび八起き”な人生

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.112 |10 April 2018
この記事をはじめから読む

#7野草を食べる第一歩とは

 夕方になると、舞子さんは慌ただしく発送の準備を始めた。収穫した野草を次々とビニール袋や箱に詰めていく作業が続く。
 それを眺めながら、「これから野草を食卓に取り入れてみたいという人になにかアドバイスはありますか」と聞いてみた。
「まずは、本当にひとつでもいいから、何かの野草を使ってチンキ(野草をホワイトリカーに漬けたもの。化粧水などの基材になる)とかを作ってみること。すぐに食べようと思わずに、まずは入浴剤や化粧水などとして利用してみる。野草は野菜ではないから、摘んで食べるのはリスクが高いんです。だから、野生種はきのこと同じという感覚をきちんと身につけてから、食べることに挑んで欲しいなと思います」
 野草と触れ合う最初の一歩として、青山や勝沼のファーマーズマーケットの舞子さんの店舗では、自分だけの入浴剤を作るコーナーも設けている。桃の花やヒバ、ヨモギやカキドオシ、シソ、みかんの皮などから、自分が好きなものを組み合わせて入浴剤をつくる。
「自分で選んで、自分で詰める、そのプロセスが大事です。たまに『自分に合いそうなものを選んで欲しい』と言われることもあるんですけど、やっぱり『わからないから』じゃなくて、とりあえずやってみるということが大事だと思うんです」
 そう、野草は狩猟採取の世界。じっと待っていても何も起こらない。
 まずは自分なりの一歩を踏み出すところから、すべては始まる。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.112

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。