未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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私の前に道はない。ただ草があるだけ!

野草屋さんの“つちころび八起き”な人生

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.112 |25 April 2018
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#6狩猟採取のすすめ

紫色のお花がかわいいカキドオシ。ミントのようなすっとした味がした。

 野草の世界は、「狩猟採取の世界です」と舞子さんは言う。
 自分の本能をとぎすませ、知識を蓄え、様々な場所に生える野草を追いかけてゆく。 いつ、どこで、どんなものが採れるかはわからない。一年のうちで一日しか採れるチャンスがないものもあるが、それが面白い。
 おかげで、季節のサイクルにあわせた生活になるので、一年中なんだかんだと忙しい。
「春の食べられる野草が終わると、夏は食べられるお花が出てきます。夏の七草といわれるものがあって、そういったものを摘んでいきます。秋はどんぐりとか山法師の実とか。あとは、金木犀のお花なんかも。冬は薬膳味噌を仕込んだり、柚子やカリンの皮を焼酎漬けにしたりして過ごします」

 そうして日々は巡り、今年、「つちころび」は5年目を迎える。
 試行錯誤の5年間だったという。
「野草を仕事にすると決めたのはいいけれど、前例がない仕事で、“野草”というものに価値を見出したり、価値をつけてくれる先人もいませんでした。誰に相談したらいいかわからないから、とにかく自分ができることをやるというかんじでした」
 ひとりで野草を探しにでかけ、本やインターネットでその使い方や調理方法を研究し、「つちころび」や草摘み実践講座、出張マーケットを通じて多くの人にその魅力を伝えてきた。興味本位でやってくる人もいるし、「ずっとこういう機会をずっと探してた!」と大喜びで講座に参加する人もいる。遠くから「野草が欲しい」とオーダーしてくれるレストランのシェフも少なくない。
 とはいえ、ほとんど前例のない「野草屋さん」に注がれる視線は、温かいものだけではないそうだ。
「野草は、自然にそこらへんに生えているものだけに、その辺の草を拾って詰めたんでしょと思われたりもするんです。でも、こちらはちゃんと旬を見極めて、摘んで、出荷して、ということをしています。だから、そういった“目利き”に価値を見出してもらいたいですね」
 舞子さんは、野草というまだ特殊な食材を、いずれはもっともっと当たり前の食材にしたいと願っている。ワインや野菜のソムリエがあるように、そのうちに「野草のソムリエ」というものも出てくるのかもしれない。そうなれば、舞子さんは第一人者になるのだろう。

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未知の細道 No.112

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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