野草の世界は、「狩猟採取の世界です」と舞子さんは言う。
自分の本能をとぎすませ、知識を蓄え、様々な場所に生える野草を追いかけてゆく。 いつ、どこで、どんなものが採れるかはわからない。一年のうちで一日しか採れるチャンスがないものもあるが、それが面白い。
おかげで、季節のサイクルにあわせた生活になるので、一年中なんだかんだと忙しい。
「春の食べられる野草が終わると、夏は食べられるお花が出てきます。夏の七草といわれるものがあって、そういったものを摘んでいきます。秋はどんぐりとか山法師の実とか。あとは、金木犀のお花なんかも。冬は薬膳味噌を仕込んだり、柚子やカリンの皮を焼酎漬けにしたりして過ごします」
そうして日々は巡り、今年、「つちころび」は5年目を迎える。
試行錯誤の5年間だったという。
「野草を仕事にすると決めたのはいいけれど、前例がない仕事で、“野草”というものに価値を見出したり、価値をつけてくれる先人もいませんでした。誰に相談したらいいかわからないから、とにかく自分ができることをやるというかんじでした」
ひとりで野草を探しにでかけ、本やインターネットでその使い方や調理方法を研究し、「つちころび」や草摘み実践講座、出張マーケットを通じて多くの人にその魅力を伝えてきた。興味本位でやってくる人もいるし、「ずっとこういう機会をずっと探してた!」と大喜びで講座に参加する人もいる。遠くから「野草が欲しい」とオーダーしてくれるレストランのシェフも少なくない。
とはいえ、ほとんど前例のない「野草屋さん」に注がれる視線は、温かいものだけではないそうだ。
「野草は、自然にそこらへんに生えているものだけに、その辺の草を拾って詰めたんでしょと思われたりもするんです。でも、こちらはちゃんと旬を見極めて、摘んで、出荷して、ということをしています。だから、そういった“目利き”に価値を見出してもらいたいですね」
舞子さんは、野草というまだ特殊な食材を、いずれはもっともっと当たり前の食材にしたいと願っている。ワインや野菜のソムリエがあるように、そのうちに「野草のソムリエ」というものも出てくるのかもしれない。そうなれば、舞子さんは第一人者になるのだろう。
川内 有緒