未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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私の前に道はない。ただ草があるだけ!

野草屋さんの“つちころび八起き”な人生

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.112 |25 April 2018
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#3畑から洗面器へ、そして星付きレストランへ

野草の花ちらし寿司(ニセアカシア、タンポポほか)と天ぷら(よもぎ、スギナ、ハコベほか) 写真提供 鶴岡舞子さん

 それにしても、セイダカアワダチ草が食べられるなんて驚きだ。ほんの15分前まで、「どこにでもはびこる凶悪な外来種の雑草」というステレオタイプなイメージしか持っていなかった。しかし、舞子さんいわく、新芽は食べれば美味しいし、花は乾燥させれば入浴剤にもでき、なかなか優秀な野草のようだ。そう耳にすると、ああ、勝手に敵視してしまってごめんね、と謝りたくなる。
 しかし、数十分も作業を続けていくと、すでに腰が痛くなってきた。
 せっかく「畑」もあることだし、もっと効率的に植えて、パパッと収穫する方法はないのだろうか、などと根がグウタラな私は考えてしまうが、それは難しいのだそうだ。
「野菜ならばタネをまくといっせいに芽が出るけど、野草の世界ではそうはいきません。野草にとって、いっせいに芽が出るのはリスクなんです。次世代に子孫を残すために種や発芽を分散させるので、すぐ芽を出すタイプもあれば、タイムカプセルみたいに地中で過ごして、二年後くらいに出てくるものもあるんですよ」
 そうかあ、だから、野草屋さんの日常はなかなか地道な作業の連続だ。
「昨日は近所の畑で在来タンポポの葉を摘んでいました。もうすぐ草刈りしちゃうよ!早く摘みにおいでと(畑の持ち主に)言われて、慌てて採りにいきました。間に合ってよかったです。タンポポって食べたことありますか? すごく美味しいんですよー」
 小一時間ほど摘み続けると、洗面器はそれなりにいっぱいになってきた。
「だいぶ集まりましたね。いったん量を計ってみましょう」と、収穫した野草を秤にかけると、舞子さんは顔をほころばせた。
「よかった、これで出荷できます。じゃあ、次はよもぎを摘みましょう!」
 収穫した野草は、一部は勝沼や青山のファーマーズマーケットなどで販売されるか、または東京などのフランス料理店などに出荷される。ヨーロッパでは、野草を取り入れた料理がブームになっていて、日本でも少しずつ需要が伸びているという。
「なかには星付きのレストランもあって、高くてなかなか食べにいけないのだけが残念ですね」

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未知の細道 No.112

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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