未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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私の前に道はない。ただ草があるだけ!

野草屋さんの“つちころび八起き”な人生

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.112 |25 April 2018
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#2世にも珍しい「野草屋」さん

 鶴岡舞子さんは、野草を摘み、暮らしに取り入れるための提案を行う「野草屋」さん。
 「摘み草の店 つちころび」(完全予約制)の運営や、野草料理を実践する講座などを実施している。活動の拠点は山梨県の甲州市。
 いやあ、正直に告白すれば、草を摘むことで生計を立てられるなんてびっくり仰天だった。しかも、ハーブでも薬草でもない、純粋な「野草屋」さんは、日本全国見回してもかなり珍しいだろう。野草ってどんな味がするのだろう、それにどうやったら人は野草屋さんなどというものになれるのだろう、という好奇心で山梨に取材にやってきた。そして、最初に案内されたのが、この広大な畑だった。

「ここらへんにあるのが、セイタカアワダチソウです。摘んでみますか?」
 カマを手にした舞子さんが、刈り方を実演してくれる。
 さっそく私もカマを手に取り、一株ずつ刈ってみる。しかし、あまり強く引っ張るとブチっと茎の途中でちぎれてしまい、せっかくの野草が台無しになった。
「わ、ごめんなさい!」
「そう、けっこう繊細なんですよー」
 さすが、舞子さんは手際よく収穫を続ける。
 収穫する株は小さすぎても大きすぎてもダメ。ちょうどいい大きさのものを選ぶ必要があるのだそうだ。しかし、その選別が素人には難しい。だって、野草はまだ数センチ程度。ちょうどいい大きさと言われてもなあ……と戸惑ってしまう。
「野草は、ひとつずつ成長度合いが違うんです。お茶と一緒で、目利きでいいものを判別していきます。小さすぎると風味が弱いし、大きすぎるとお皿にのらないですから」
 日差しが強くなり、全身が汗ばむなかで、私たちは黙々と収穫作業を続けた。
 時折響くホーホケキョ! だけがBGMだ。
 それにしても、私にとっては久しぶりに土に触る時間。日差しはきつかったけれど、気分はよかった。
 摘んだセイタカアワダチソウは、お水にちょんちょんとつけ、形を揃えて並べていく。
 こうしてみると、小さなほうれん草のように見える。
「ねー、こうしてみると、美味しそうでしょう」と舞子さんは愛おしそうに野草たちを眺めた。

収穫されたセイタカアワダチソウ。青々としておいしそうだ。
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未知の細道 No.112

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。