稽古中だという『獅子は』という踊りを見せてもらった。富久丸さんと、昨年の春に芸者になったばかりだという新人の富久駒さんが、並んで金屏風の前に立つ。
富久丸さんが歌詞を口ずさみながら、ゆっくりと一緒に踊っていく。「もう少し腰を落として」「手の向きはこっち」など、形を直しつつ身体で覚えていくという感じだ。和やかなムードは変わらないけれど、教える富久丸さんも、覚える富久駒さんも目は真剣そのもの。
「富久丸お姐さんに指導していただく以外に、他の日本舞踊の教室にも通い始めたんです。今まで踊りをやったことがなかったので、早く上手になりたくて」
働きながら週に2日は踊りの稽古に通い、週に1日は横浜芸者の稽古に参加しているという富久駒さん。そんな熱心な彼女は、現在21歳。高校卒業後ホテルに就職し、そこで着物姿の人を見てから「着物が着られる仕事」というのが仕事探しの条件になったそうだ。ホテルや旅館などで働くなかで、横浜の田中家で富久丸さんに出会った。
「最初は着物が着たいっていう気持ちだけだったんですけど、仲居さんをやりながらお作法を習っていくうちに、日本人らしくてきれいだなと思うようになったんです。富久丸お姐さんの動きって、他の人と全然違うんですよ。指先まで揃っていて、ピシっとしていて……。そんなところに憧れて、『私にも踊りを教えてください』ってお願いしました」
ウィルソン麻菜