田中家の応援もあって、専属ではなく「横浜芸者」として横浜全体で活動をし始めた富久丸さんだが、芸者というのはなかなかひとりでは難しい場面もある。そんなときに横浜芸妓組合に所属し、一緒に活動をしてくれたのが香太郎さんだった。
香太郎さんは舞踊家として師範の資格を持つ踊りのプロ。共通の知り合いを通して、富久丸さんの活動を知った香太郎さんは、その熱い思いに自分の故郷を重ねた。
「私は熊本の人吉市という田舎の出身なんですけど、自分が育ってきた記憶では賑やかだった町が、今では閑散としてしまっているんですよね。昔の面影がまったく感じられないっていうのは寂しいなあ、と。そういう思いがありながらも、自分が地元に帰って何かするというわけではなかった。でもこうやって近くでお手伝いできる場所があるのであれば、自分の故郷のつもりで踊らせていただいています」
踊れる場所があると嬉しいので、と笑う香太郎さんは今年から三味線の稽古も始めたそうだ。カセットテープで踊ることもあるという芸者だが、お座敷遊びなどその場の雰囲気に合わせた演奏ができるのは、やはり生演奏。
「今は富久丸お姐さんしか三味線を弾ける方がいないので。難しいですけど、私も少しずつ勉強です」
踊りの師範としてお弟子さんもいる香太郎さんは、今でも踊りや三味線を学び続けている。芸に終わりはない、というプロ意識を感じた。
ウィルソン麻菜