未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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20年の時を経て蘇った!

横浜芸者、復活への道

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.110 |25 March 2018
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#6丘の上の老舗料亭と三味線の音

長い長い階段の上、住宅のあいだにある老舗料亭「田中家」

 後日、実際に富久丸さんが田中家で三味線を弾く機会があるというのでお邪魔させていただいた。先述したように、田中家は文久3年(1863年)から150年以上続く老舗の料亭で坂本龍馬の妻、おりょうが仲居として働いていたこともあるという歴史を持つ。

 長く続く階段を登る田中家のある場所は、埋め立て前は海沿いの崖の上だった。この海沿いには昔、50軒もの料亭が軒を連ねていたという。窓からは絶景の海が見え、庭に松がはえる田中家は当時から風情のある人気料亭だったのだろう。

料亭内では、横浜の長い歴史を感じる。

 友人の誕生日祝いの席としてお座敷に呼ばれた富久丸さんは、三味線で6曲の歌を披露した。一棹の三味線と一人の芸者さんで、こんなにも食事の席が華やかになるのかと思うほど歌声は伸びやかで三味線の音は部屋中に響いた。

 ひとつひとつの歌の紹介はもちろんのこと、横浜芸者の歴史や三味線の構造まで、富久丸さんはお客さんと会話をしながら進めていく。

三味線を弾いて歌うだけでなく、横浜や芸者にまつわる話も聞くことができる。

「三味線の種類によって皮も違ってきまして、こちらは猫の皮を使っております。昔は横浜でも、野良猫が気付くといなくなっていたこともあったそうで……」

 そんな普段は聞けない話に、思わずお客さんも食べる手を止めて質問していた。時にはこうやって話をしながら、そして時にはBGMのように食事を楽しんでもらいながら。芸者はただ単に決められたプログラムに沿って進めるのではなく、そのときのお客さんや雰囲気に合わせて臨機応変に場を盛り上げていく。その姿はまさに「おもてなしのプロ」だった。

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未知の細道 No.110

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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