未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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遊覧船の船頭唄を聴きながら

巴波川沿いに歩く栃木の蔵の街

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.105 |10 January 2018
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#7木桶の味噌は格別

大きな蔵に青いのれんが、よく似合っている。

 川沿いを歩きながら、私は目的地に急いでいた。江戸時代から続く味噌屋さんで、味噌田楽が食べられると聞いたからである。辿り着いた油伝味噌株式会社は、もともとは油屋さんだったという。1781年頃(江戸天明年間)に創業し、その後、味噌の製造を始めた。現在では味噌の製造と販売、それから少しでも多くの人に味噌の美味しさが広まるようにと田楽が食べられる飲食店を営んでいる。

 のれんをしまう時間ギリギリになってしまった私に「どうぞ」と言ってくれたのは8代目社長の奥様。豆腐や里芋を、丁寧に網で炙りながらお話してくれた。

「このあたりは名物らしい名物もないけど、水がおいしい。だからとてもおいしい味噌が作れるんです。江戸時代から、味噌は人々の生活に欠かせないものでしょう。最近の人は生活環境が変わってきていますけどね」

 以前は3軒あったという味噌屋さんも、今ではこの油伝だけ。それでも、今でも味噌を木桶で作り続けている。巨大な木桶を作れる職人は、もういないという。だから大量に作ることが難しい。また早づくり白味噌は半年から、赤味噌は長いもので2年の熟成期間がかかるのも、理由のひとつだ。

蔵のなかの大きな木桶で味噌を熟成させる。

「いいものを少しずつ、ですね」

 オンラインでの販売を持ちかけられることがあっても、作れる量に限りがあるのでとても対応できないのだという。そんなお話のあとに出してもらったのは、田楽盛合せ。豆腐、里芋、こんにゃくが一本ずつ。それぞれに合わせた、違う味噌が塗ってある。

 こんにゃくには、ほんのりとゆずの香りがする甘い味噌。小ぶりの里芋にも甘い味噌が合うが、こちらは山椒がアクセントになっている。そして豆腐にはごまがたっぷりの味噌。それぞれ食感も味も違う田楽を味わえる、贅沢な一皿だ。

「ちょっとお時間はいただきますけど、焼きたてを食べて頂いたほうがおいしいから」

 そう言って炙ってくれた奥様の言うとおり、具材はすべてまだ温かい。味噌がトロリと塗ってあるこの田楽は、食べきるのがもったいないくらいだった。

その場で温かい味噌を塗ってもらって食べる。
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未知の細道 No.105

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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