未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
105

遊覧船の船頭唄を聴きながら

巴波川沿いに歩く栃木の蔵の街

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.105 |10 January 2018
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#3母と船頭の顔をもつ

唯一の女性船頭、大川さん。

 舟を降りて、今度は女性船頭の大川さんに話を聞いてみる。現在、唯一の女性船頭として舟を漕ぎながら事務局の仕事も担っているという大川さんが、船頭になったのは8年前。

「それまでは専業主婦をしていました。子育てしながらできる仕事を探していたら、平日だけここを運営していた観光協会の求人があって。『遊覧船のお手伝い』と書いてあったその求人に申し込んだら、船頭が足りないと言われて・・・・・・」

 隣町の出身で遊覧船の存在すら知らなかったという大川さん。船頭なんてとんでもないと、運営のお手伝いから始めたのだが、「まんまとやられました」と笑う。

「当時は今ほど忙しくなかったから、暇な日に『舟に乗ってごらんよ』って言われて、遊び半分で乗っているうちに乗れるようになったんですね。そうしたらそのうち、船頭歌のCDを渡されて、1ヶ月後には船頭になってました」

 現在は10人いるという船頭さん。大川さんは専業主婦からアルバイトとして入ってきたが、小林さんをはじめ他の船頭さんはみんな定年退職後の男性たちだ。

「子どもが小さいときは、ここに連れてきて遊んでもらったり一緒に舟を漕いだりしてもらいました。いい職場ですね」

 普段はお母さんとして生活している大川さんだが、船頭の顔があるというと周りも驚くという。子どもの部活動の遠征先でも、遊覧船を宣伝してしまうそうだ。そんな話をしている大川さんの顔は、船頭さんでもあり、母でもあった。

「逆に専業主婦じゃなければ、このアルバイトを選んでなかったかもしれません。平日の短い時間という条件で探していたから。でも船頭になって人生が180度変わりましたね。舟漕いで、人前で歌って。自分でも驚いています」

 「船頭唄歌うのは、今でも歌詞が飛ばないか不安」と笑う大川さんの漕ぐ舟に、今度は乗ってみたいと思った。

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未知の細道 No.105

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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