未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
69

旅するお百姓さん

日本にハーブを広めた男

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.69 |25 May 2016
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#8百姓は「総合科学」だ!

今の霜多さんは息子さんの代に主な仕事を譲り、自身は土の化学分析や旅に多くの時間を費やしている毎日だ。旅じゃないよ、出張と言ってよ、と霜多さんは笑って訂正を求めていたが。

さて、霜多さんが次に手がけることはなんですか? と尋ねると、次は沖縄でハウスを使ってバジルを作るんだ、という。暑い沖縄なら、輸送費を差し引いても、冬の暖房費のコストを考えずに1年中バジルを作ることができる。
それから肥料計算をさらに体系的にやって、分析のスタンダードをつくることかな、おいしいだけでなく、体に良い野菜を作りたい、それがお客さんにできる俺のサービスだからね、と霜多さんはいう。

  • 広大なバジルのハウスを沖縄にもつくる予定だ。
  • 栄養価が高く、高級スーパーのほか病院にも卸されるという人気のミニ大根


またそれを実際に私たち消費者が学べる機会も、霜多さんはすでにつくっている。今、取手市農政課では霜多さんたちが講師になった「野菜の力」という勉強会を定期的に行って、市民が野菜の栄養や食べ方などを学べる講義を開いているのだ。

俺は百姓という言葉が好きなんだよね、と霜多さんはいう。
天気を読み、化学を学び、植物を知り、その他、たくさんのことがなんでもできないと百姓はできない。だから百姓は総合科学なんだよ。

なるほど「百の姓(かばね)」とはよくいったものだ、と確かに思う。
でも霜多さんはただの「百姓」ともちょっと違う。旅するお百姓さんなのだ。
ちょうどハーブを作り始めるのに、時代の流れがあっていたんだよね、俺は運が良かった、霜多さんはいう。でもその時代の波を読みきった力は、霜多さんが旅で培ってきたバイタリティと舌の感覚にほかならない。

茨城の広々とした農場で育つハーブたち。このハーブを遠くから旅させてきたように、霜多さんはいつも旅しながら、常に新しい農業を探しているのだ。まるでヨーロッパのような、ハーブ畑の風景をみて、そう思った。

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未知の細道 No.69

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。