今の霜多さんは息子さんの代に主な仕事を譲り、自身は土の化学分析や旅に多くの時間を費やしている毎日だ。旅じゃないよ、出張と言ってよ、と霜多さんは笑って訂正を求めていたが。
さて、霜多さんが次に手がけることはなんですか? と尋ねると、次は沖縄でハウスを使ってバジルを作るんだ、という。暑い沖縄なら、輸送費を差し引いても、冬の暖房費のコストを考えずに1年中バジルを作ることができる。
それから肥料計算をさらに体系的にやって、分析のスタンダードをつくることかな、おいしいだけでなく、体に良い野菜を作りたい、それがお客さんにできる俺のサービスだからね、と霜多さんはいう。
またそれを実際に私たち消費者が学べる機会も、霜多さんはすでにつくっている。今、取手市農政課では霜多さんたちが講師になった「野菜の力」という勉強会を定期的に行って、市民が野菜の栄養や食べ方などを学べる講義を開いているのだ。
俺は百姓という言葉が好きなんだよね、と霜多さんはいう。
天気を読み、化学を学び、植物を知り、その他、たくさんのことがなんでもできないと百姓はできない。だから百姓は総合科学なんだよ。
なるほど「百の姓(かばね)」とはよくいったものだ、と確かに思う。
でも霜多さんはただの「百姓」ともちょっと違う。旅するお百姓さんなのだ。
ちょうどハーブを作り始めるのに、時代の流れがあっていたんだよね、俺は運が良かった、霜多さんはいう。でもその時代の波を読みきった力は、霜多さんが旅で培ってきたバイタリティと舌の感覚にほかならない。
茨城の広々とした農場で育つハーブたち。このハーブを遠くから旅させてきたように、霜多さんはいつも旅しながら、常に新しい農業を探しているのだ。まるでヨーロッパのような、ハーブ畑の風景をみて、そう思った。
松本美枝子