さて5月の晴れたある日。私は水戸から小貝川の方まで車を走らせていた。小貝川を渡ると、すぐに「シモタファーム」がわかった。
道沿いから小高い丘にかけて、大きな農業用ハウスが何棟もそびえ立っているのが見えたからだ。
車を停めると駐車場には、白い小さなカモミールの花が咲き乱れている。
そしてハウスへと続く農道に一人の男性が立っていた。それがシモタファームの主、霜多増雄さんだった。
赤いシャツをラフに着こなす霜多さんは、御年70歳には見えないかっこよさがあった。農場の入り口にある建物の二階に事務所があるのでそこで話そう、と案内してくれた。霜多さんはここの一階と農場は後で見せるよー、といいながら階段を上がっていく。(後でこの一階こそが、この農園の秘密がつまった中心部である! ということがわかるのだが……。)
二階で話を始めると、誰かがまた階段をトントンと上がってくる。
東南アジア出身の外国人だろうか、日本語が流暢で可愛らしい笑顔の女性が大きなポットいっぱいに、きれいな緑色のお茶を持ってきてくれた。
ポットの中身は生葉をふんだんに使ったハーブティだった。
飲んでみると爽やかでそこはかとなく甘く、いい香りが口の中に広がって、緊張がゆるんだ。
レモングラス、レモンバーム、アップルミント、それからローズマリーがちょっとだけね、これは入れすぎちゃダメだけど。
と霜多さんがくわしく説明してくれた。生葉特有の爽やかな香りが、頭をはっきりさせてくれる。絶妙なブレンドのハーブティだった。
こんなに美味しいたくさんのハーブが、ここで作られるようになるまで、どんな物語があったのだろうか?
すると霜多さんは、それを聞かれると俺の恥を話さなきゃいけないからなー、と笑いながら、長く、面白い話を語り始めたのだった。
松本美枝子