未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
69

旅するお百姓さん

日本にハーブを広めた男

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.69 |25 June 2016
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#2はじめの一杯の、ハーブティ

小貝川を渡ると右手にシモタファームの農業用ハウス群がうっすらと見えてくる。

さて5月の晴れたある日。私は水戸から小貝川の方まで車を走らせていた。小貝川を渡ると、すぐに「シモタファーム」がわかった。
道沿いから小高い丘にかけて、大きな農業用ハウスが何棟もそびえ立っているのが見えたからだ。

車を停めると駐車場には、白い小さなカモミールの花が咲き乱れている。
そしてハウスへと続く農道に一人の男性が立っていた。それがシモタファームの主、霜多増雄さんだった。
赤いシャツをラフに着こなす霜多さんは、御年70歳には見えないかっこよさがあった。農場の入り口にある建物の二階に事務所があるのでそこで話そう、と案内してくれた。霜多さんはここの一階と農場は後で見せるよー、といいながら階段を上がっていく。(後でこの一階こそが、この農園の秘密がつまった中心部である! ということがわかるのだが……。)

二階で話を始めると、誰かがまた階段をトントンと上がってくる。
東南アジア出身の外国人だろうか、日本語が流暢で可愛らしい笑顔の女性が大きなポットいっぱいに、きれいな緑色のお茶を持ってきてくれた。 ポットの中身は生葉をふんだんに使ったハーブティだった。
飲んでみると爽やかでそこはかとなく甘く、いい香りが口の中に広がって、緊張がゆるんだ。

レモングラス、レモンバーム、アップルミント、それからローズマリーがちょっとだけね、これは入れすぎちゃダメだけど。
と霜多さんがくわしく説明してくれた。生葉特有の爽やかな香りが、頭をはっきりさせてくれる。絶妙なブレンドのハーブティだった。

こんなに美味しいたくさんのハーブが、ここで作られるようになるまで、どんな物語があったのだろうか?
すると霜多さんは、それを聞かれると俺の恥を話さなきゃいけないからなー、と笑いながら、長く、面白い話を語り始めたのだった。

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未知の細道 No.69

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。