さて冒頭の話に戻ろう。宮本常一の『飛島の女』の中では、女は飛島へと帰れないまま、話は終わる。
世の中は明治になり、飛島から庄内・湯野浜へお寺参りにやってきた若者たちの一群は、一人の年老いた女に出会う。その老婆、かつて飛島から流されてきた女は、若者たちのうちに自分の血の分けた孫がいることがわかり、懐かしさのあまり、その若者にすがりついて泣くのである。
飛島に帰った若者は家の者にその話をし、若者の父、つまり老婆の実の息子は、その女を探しに湯野浜へと使いをやる。しかし、何度探してもその老婆を見つけることは、もはやできなかった——。そういう結末である。
民俗学と物語の区別が果たしてできるかどうかの、ギリギリのライン上にあるようなこの悲しい一編に、私は読むたびに胸を熱くしてしまう。
海を船で行き来して生活する人々の厳しい暮らしが、かつて日本にあったことを、それは教えてくれる。
そして人間が自然の中で懸命に暮らしてきた歴史よりはるか昔から、鳥たちは翼を広げて自由に海を越えてきたのかと思うと、私はなんだか羨ましいような気持になる。鳥たちはただ生きるために、膨大な距離をずっと旅しているのだ。
私たちよりずっと小さな体の鳥。でも翼を持ち、空へと羽ばたくことができる鳥。
鳥たちがどのようにして海を越えて、最終の目的地までへとたどり着くのか、実際のところは、まだよく解っていない。その経路はあくまでも我々人間の推測でしかないのだ、と簗川さんは言う。
それはそうだ。だって私たちは空を飛ぶことも、自分の体一つで海を渡ることもできないんだもの。
この先どんなに科学が進んでも、鳥たちの旅を私たち人間が完全に追いかけることは、とても難しいことのような気がする。
でもここ飛島が、彼らの旅の中継地であることだけは、確かなことだ。
運が良ければ、遠い中央アジアやロシア、さらにはその先のヨーロッパから旅してきた、そっと羽を休めている珍しい鳥たちに、あなたは出会えるかもしれない。
小さくて美しく、そして逞しい生き物、渡り鳥を見に、あなたもぜひ飛島へと渡ってみてほしい。
未知の細道の旅に出かけよう!
飛島でバードウォッチングを堪能する旅
(2日間)
予算の目安 3万円~
おすすめの季節 秋 10月~11月 春 4月~5月
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松本美枝子