飛島は小さい島なので、一日歩けばある程度、島の概要を掴むことはできる。
島にはいくつかバードウォッチングのポイントがあって、「一の畑」とか「二の畑」、あるいは「ヘリポ」(ドクターヘリが降りてくる、島のヘリポートの略)などとバードウォッチャーたちは呼んでいる。
バードウォッチングというと、山の中、森の中という勝手なイメージがあったが、簗川さんいわく「実は畑とか広場とかは、鳥を観察しやすいポイントなんです」
木立や薮の中よりも、よく開けた場所の方が鳥を見つけやすいということもある。
秋の畑では島のお母さんたちが農作業に精を出しているので、その邪魔にならないように気をつけながら、アトリやジョウビタキをじっくりと観察した。
顔見知りになると、時には島の人たちに「鳥いだがあ?」と声をかけられるときもあるそうだ。
それはそうと、飛島には昔から野鳥が飛来していたのであろうか? そしてそれは島の人たちが知っていたことなのだろうか?
ふと浮かんだ疑問を簗川さんに聞いてみた。すると簗川さんは、こんな興味深い話をしてくれた。
現在、日本列島の中で野鳥の中継地として有名なところは能登の舳倉島、長崎の対馬、そしてここ山形の飛島の3つである。この小さな島々は、大陸から飛んでくる、あるいは春は北方、秋は南方へと飛んで行く鳥たちの、かっこうの休憩所なのだ。
しかし飛島の人々は、以前からそれに気づいていたわけではなかった。以前の飛島は釣り客しかこない島であった。
能登の舳倉島は鳥たちの中継地として、すでに知られていた。ならば同じ日本海に浮かぶ飛島も野鳥の中継地になっているのではないか? そう考えた日本野鳥の会・山形県支部の人たちが飛島に渡って調査してみると、やはりここも渡り鳥の宝庫である、ということが分かったのであった。しかも飛島は面積2.7㎢、周囲10.2㎞と非常に小さい島だ。渡り鳥たちの生態を観察するにはうってつけの場所である。昭和50年代半ばのことであった。
さて昨日までノドジロムシクイがいたという「ヘリポ」に辿り着いた。
昨日はきっとたくさんのバードウォッチャーで賑わっていたであろう、夕暮れ時のヘリポは、なんだかひっそりとしていて、やはりノドジロムシクイはもうこの島からは旅立ってしまったのだ、ということを伺わせた。
しかし静かなヘリポの野原には、たくさんのカシラダカやミヤマホオジロ、アトリたちがいた。草の種か、あるいは虫なのだろうか、懸命に何かをついばんでいる姿は見ていて飽きることがない。なにより今日一日で、肉眼でこの子たちの姿が判別できるようになったことに、自分でも大きな達成感があった。
そろそろ日が沈む頃だ。日暮れとともに鳥たちも静かになり、バードウォッチングも終了となる。 宿に向かって、すっかり暗くなった道を歩いていると、上空から鳥たちの鳴き声が聞こえてきた。それを聞きながら簗川さんが「これは、今、島を飛び立つ鳥たちの合図の鳴き声ですね」と教えてくれた。
今日も一日天気が良かったから、これからたくさんの鳥たちが島を旅立っていくのかもしれないな、と私は思った。
天候によって鳥が抜けたり、逆にたくさん入ってきたり、とにかく一晩でガラリと島の鳥たちのメンツが変わるのが「渡り」を実感できるということであり、飛島の醍醐味のひとつなのだ、と簗川さんが続けて教えてくれた。
じゃあ、明日はどんな鳥に出会えるのかなあ。
窓の向こうは日本海、波の音がよく聞こえる民宿の部屋で、そんなことを考えながら私は早めに布団にもぐった。
未知の細道の旅に出かけよう!
飛島でバードウォッチングを堪能する旅
(2日間)
予算の目安 3万円~
おすすめの季節 秋 10月~11月 春 4月~5月
※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。
松本美枝子