未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
54

旅する鳥たちを追って 渡り鳥が飛ぶ島 飛島

文= 松本美枝子
写真= 簗川堅治(表紙、野鳥の写真)、松本美枝子(文中の写真、クレジット表記以外)
未知の細道 No.54 |10 Nobember 2015
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#2渡り鳥の中継地・飛島

鳥を見に、たくさんのバードウォッチャーが集まる。

とにかく飛島へ行ってみたい、飛島について何か書けることはないかしら……と考えた私は、彼の地について調べてみることにした。
飛島は山形県最北の地でありながら、対馬海流によって平均気温が約12℃以上に達し、山形県内で最も温暖な土地である。そのおかげで東北日本海側の寒さ厳しい自然とは少々違った、豊かな自然の表情を見ることができる。日本海におけるサンゴの北限の地であり、またドチザメの産卵の場として、夏には多くのダイバーたちが集う。釣りも有名で、季節を問わず釣り人たちが島へと渡ってくる。また実はマグロ漁場として、知る人ぞ知る島でもあるのだ。
そんな自然の魅力がたくさん詰まった飛島だが、とりわけ一番先に語るのであれば、それはなんといっても「渡り鳥の中継地」だ、ということも分かった。

私たちが生活の中で最もよく見かける野生動物、それは鳥であろう。自然豊かな場所のみならず、都市部でも逞しく生きている鳥たち。
鳥は繁殖や越冬のために定期的に移動(これを「渡り」という)をしており、少しの留鳥を除いて、実は私たちが見ている鳥の多くが「渡り鳥」なのである。日本におけるこの鳥たちの「渡り」はロシア、極東で繁殖するものから、東南アジアへと越冬するものまでさまざまあり、まさに地球をまたにかけた旅なのだ。そして飛島はその渡り鳥の旅の中継地として日本屈指の場所であり、バードウォッチャーたちのメッカになっているのだという。 飛島で記録された野鳥の数は、実に約300種。運が良ければ本土では見られないような珍鳥を観察することもできる。折しも鳥の渡りは春と秋が多く、かなりの鳥が飛来するらしい。
よし、飛島に渡り鳥を見にいこう。そう決めた私は、早速、飛島行きの船に乗ることにしたのであった。


珍鳥のコアカゲラ。運が良ければ飛島で見られるかもしれない。©簗川堅治

さて飛島へ行くには、酒田港から通常一日一便しか出ていない定期船「とびしま」に乗るしかない(季節によっては一日二便)。海が時化れば、何日も酒田の街に足止めを食うこともあり得る。事実、この10月の初めは、時化が続いて、何日も船が欠航していた。
とにかく、私が飛島に行く日は晴れて欲しい! そう祈りながら、飛島行きへ備えたのであった。


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未知の細道 No.54

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。