未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
54

旅する鳥たちを追って 渡り鳥が飛ぶ島 飛島

文= 松本美枝子
写真= 簗川堅治(表紙、野鳥の写真)、松本美枝子(文中の写真、クレジット表記以外)
未知の細道 No.54 |10 Nobember 2015
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#7ついに出会えた珍しい鳥たち

早朝5時きっかりに目が覚めた、まだ日は昇らない。ねぼけまなこで身支度を整えて、いざ二日目のバードウォッチングへ。
10月半ばの島の朝は少し肌寒い。手袋は必須アイテムだ。
夜明けと同時に、もう一つのポイント「校庭」へと出かける。すでにたくさんのバードウォッチャーたちがカメラを構えていた。
今日は「ノゴマ」が来ているみたいだよ、とその中の一人が教えてくれた。ノゴマは夏はロシアで繁殖し、冬は東南アジアへと越冬する。日本では北海道あたりでしか見られない、なかなか珍しい鳥だ。教えてもらった方向にじっと目をこらすと、茂みの中からすぐ、ノゴマが出てきた! ノゴマは緑褐色の体に赤い喉元がとてもきれいな鳥である。そのトレードマークの赤い喉も、簗川さんが合わせてくれたスコープでしっかり確認することができた。

ノゴマがいた!©簗川堅治
シギの仲間は判別がとても難しい。この写真は、スコープのファインダーにコンパクトデジカメを 合わせる、通称「デジスコ」という超望遠撮影方法。©簗川堅治
やっと出会えたムギマキ。動きがすばやいので写真撮影がとても難しい。©簗川堅治

民宿に泊まるバードウォッチャーたちが長年書き続けてきた野鳥日誌。私も記録してきました!

やった! やった! と小さな声で喜んでいると、すぐ隣で山上さんが「シギ? がいるみたい」と言い始めた。その方向をスコープで覗いてみると、ファインダー越しに、黒々とした大きな目の生き物が、どーんといて、びっくりした。茶色のまだら模様の羽毛で、体長は25センチ以上はあるだろうか……、細長いクチバシも存在感がある鳥だ。タシギという、これも飛島では飛来数が少ない鳥だということがわかった。この子はまだ幼鳥だという。じっと草むらの中に佇んでいるタシギは、生まれて初めての長旅に疲れているのかもしれなかった。
簗川さんが「山上さん、よく見つけましたね!」というと、山上さんは「たまたま覗いたら目に入っただけ!」と嬉しそうに笑った。

立て続けに珍しい鳥に出会えて大満足の私たちは、いったん宿に戻って朝ごはんを食べ、宿のおかみさんに作ってもらったお弁当を携えて、1時半出航の酒田行きの船に間に合うギリギリまで、バードウォッチングを続けることにした。
朝食後に荒崎という島の北西の海岸を歩いた後、昨日と同じ木立の中の道が続くルートへと戻ってきた私たちには、あるひとつの目標があった。
それは昨日、私と山上さんが確認できなかった「ムギマキ」を探しにいくことである。
ムギマキも本土ではなかなか見ることのできない珍しい鳥だ。ムギマキの動きはとても素早いので、昨日は簗川さんしか、その姿を確認することができなかったのだ。

さて昨日と同じ、ムギマキが好きなサンショウが茂る林の中へとたどり着いた。すぐにムギマキらしき鳥がやってきたが、あっという間に羽ばたいてしまい、またもや確認することができない。「また来ますよ」という簗川さんの言葉で、 草むらに腰を落ち着けてムギマキを待つことにした。お弁当を食べながら我慢強く観察を続けたが、なかなかムギマキは戻ってこない。
…… 20分、いや30分も経った頃だろうか。「あ、きましたよ!ほら」と簗川さんが指差した方向へと双眼鏡を合わせると、いた! オリーブ色の体に首から腹にかけてオレンジ色の羽毛がかわいらしい小鳥だった。二日かけてやっと出会えたムギマキは、一生懸命、木の実をついばんでいる。間近でその姿を見ることができて、感動もひとしおであった。

そんなこんなで船が出る時間が近づいてきた。
飛島の滞在、約27時間はあっという間だった。思った以上にバードウォッチングにハマってしまっている自分がいた。鳥の生態を知ることで、環境や自然を深く知ることにもつながる、そんなバードウォッチングの面白さがわかりかけてきた頃に、島を離れるのはとても惜しいような気がした。
それを簗川さんに伝えると、またぜひ鳥を見に飛島へ来てください、と笑って言われて、私は船に乗り込んだ。
次に来るときは「荒天」に恵まれるといいなあ、そしたら、もっとたくさん鳥が見られる!なんて思いながら。

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未知の細道 No.54

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。