港に着くと、一人の男性が私を待ってくれていた。バード・コンシェルジュの簗川堅治さんである。
今回の滞在でガイドをしてくれる簗川さんは、スラリとした体に三脚付きの大きなスコープ、ずっしりとした双眼鏡、それに400ミリのレンズが付いた一眼レフカメラを軽々と抱えて立っていた。日本野鳥の会・山形県支部の支部長でもある簗川さんは、バードウォッチングのガイドをする他、鳥と環境の調査、鳥に関する執筆などを行っている、いわゆる野鳥の「プロ」だ。山形県天童市出身の簗川さんは3時間半かけてこの飛島へと通う日々を、もう20年以上も続けている。
それから今回、私と一緒に簗川さんにガイドしてもらうバードウォッチャー、山上さんも合流し、いざバードウォッチングへとでかけることになった。
歩き始めると「今日は晴れているから、だいぶ鳥が抜けたようです」と簗川さんが言い始めた。「抜ける」とは鳥が島から飛び立つ、つまり次の目的地へと旅立ってしまったことを意味する。
地球の上を、時間をかけて移動する鳥たちにとって、飛島は一時的に休むところだ。天気が悪ければ、鳥たちはしばらく島に留まっている。いくら翼がある鳥とて、悪天候の海の上を長い時間をかけて飛ぶのは難しいからだ。次の目的地へと旅立つタイミングは、晴天になったときだ。
「日本への飛来が初記録となるノドジロムシクイが、昨日までこの島に連続12日間もいたんですが、午前中これまでいた場所を確認したのだけど、もうどこにもいなくて……どうも今朝、抜けちゃったみたい」と簗川さんがいうと、山上さんは「えぇー……!」と言って、とても残念がっている。
はて、どこかで聞いたような……、ノドジロムシクイ……、あっ、さっき船の上で、おじいさんが教えてくれた鳥ではないか!
ヨーロッパからやってくるノドジロムシクイは、モンゴルの東端あたりまでは飛んでくるが、本来、日本に来ることはない。おそらく風に流されてこの飛島までたどり着いてしまったのではないか、と簗川さんは教えてくれた。
それにしても日本に初めてやって来た珍鳥が昨日までこの島にいたのに、今日はもう見られないなんて、残念すぎる! と私も悔しがっていると、簗川さんはちょっと苦笑いしながら、こう言った。
「飛島は晴れてくれないと船が出ないから人は来られない。でも晴れると鳥は抜けてしまう。ベストはしばらく雨の日が続いて、午前中に晴れて船が出る、という天気かな。でも、とにかく飛島に来ないことには鳥は見られないですからね」
そうだ、とりあえず私は来たかった飛島にこうして立っているのだ。ノドジロムシクイとの出会いはまたいつかにとっておいて、これから二日間どんな鳥に出会えるのかを楽しみに島を歩こう! と思い直したのだった。
未知の細道の旅に出かけよう!
飛島でバードウォッチングを堪能する旅
(2日間)
予算の目安 3万円~
おすすめの季節 秋 10月~11月 春 4月~5月
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松本美枝子