しかし実際に島の中を歩いていると、思いのほか、たくさんの鳥たちに出会う。簗川さんは「昨日まではもっとたくさんいたのになあ」とつぶやいているが、初心者の私にしてみれば十分すぎるほどだった。
薮から小道の間を、せわしなく出たり入ったりしている「アオジ」、それから頭の羽がちょこんと立っているかわいい鳥「カシラダカ」、そして学名にも入っている《elegance》の言葉通り、黒と黄色の顔が美しく、優雅な鳥「ミヤマホオジロ」……などなど見たことのない小鳥たちをスコープでじっくりと、あるいは肉眼でもはっきりと見える位置で、よく観察できる。新しい鳥を見ると、簗川さんがそのつど図鑑を出して、詳しく解説してくれるので、次に同じ鳥が道端に出てくると、自分でわかる時もあった。
止まってよく見える鳥ばかりではない。姿は見えずとも藪の中から、さまざまな鳴き声が聞こえてくるし、サーッと空を横切っていく鳥たちもたくさんいる。その度に、簗川さんは「あ、これはシメの鳴き声ですね」とか「いま飛んでいったのはジョウビタキだな……」などという。
じっくり観察できる鳥ならばともかくも、なんで一瞬だけ目に映った鳥の名を断定できるの?! と私は不思議でならなかった。
子供の頃から鳥が大好きで、中学生の時に日本野鳥の会・山形県支部に入ったという簗川さんだが、今も当時も中学生会員というのは珍しかった。大人の会員たちにかわいがられ、さまざまな探鳥会に参加した。会員たちが、お、あれはアカゲラだな、などと空を横切る鳥を見て言っているの聞いて「すごい! なんで今のでわかるんだ!?」と簗川さんは子供心に思ったそうだ。「それ、まさに今の私の心境ですけど!」と心の中で叫ぶ私である。
バードウォッチングでは、まずは見ることよりも、鳥の声をよく聞くことが重要だ。どこからその鳴き声が聞こえてくるのか、静かに耳を傾ける。それからその方向を頼りに鳥が好んで止まりそうな木の枝の先などを見つめる、あるいは薮や木など、その全体をじっくりと眺める。そうして、鳥の姿を確認し、声や仕草なども複合的に照らし合わせて、何の鳥かを判断するのだ。ちなみに簗川さんは鳥の鳴き声を記録するために、ポータブルレコーダーもポケットに忍ばせている。
簗川さんは耳と目と、長年かけて培った膨大な鳥の知識とをフル回転させて、瞬時に鳥の名を判断し、私たちに教えてくれるというわけだ。
ハヤブサがよくいるという海岸近くの大きな岸壁の前にきた。ここではつがいのハヤブサをじっくりと観察することができた。絶壁に佇む二羽の猛禽はキラキラとした目を持ち、強そうで、本当にきれいな生き物だった。その立派な体躯は、うっとりといつまでもスコープを覗いていたくなる。
ところで大きな猛禽類は昼間に起こる上昇気流に乗って滑空する。逆に言えば、猛禽類が空を舞っている時は、そこに上昇気流が起きている、ということがわかるわけだ。一方、小さな鳥は羽ばたくので体温が熱くなる。なので気温の低い夜間に渡りを行うのだ。
あれ? たしか鳥は夜は目が見ないから飛べないのでは? と私が問うと「実は鳥が<鳥目>というのは人間の思い込み、全くの迷信なんですよ」と簗川さんは教えてくれた。鳥の生態を深く知るということは、同時に天候をよく読みとり、環境を知ることなんだ、ということに私は改めて気づいたのであった。
簗川さんは現在48歳。4年前に一念発起して、サラリーマンを辞めた。大好きな鳥のことだけを仕事にして生きていくためである。最初のうちは奥さんに反対されたが、1年かけて説得し、やがて認めてくれた。二人の息子さんには、どちらも渡り鳥に関する名前をつけたというほどの簗川さんである。現在は飛島の野鳥の第一人者として、たくさんのバードウォッチャーたちに飛島の鳥の素晴らしさをガイドする日々を送っている。
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松本美枝子