未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
54

旅する鳥たちを追って 渡り鳥が飛ぶ島 飛島

文= 松本美枝子
写真= 簗川堅治(表紙、野鳥の写真)、松本美枝子(文中の写真、クレジット表記以外)
未知の細道 No.54 |10 Nobember 2015
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#3ヨーロッパからきた珍客

酒田港から飛島に向けていよいよ出航。

10月半ばの早朝。私は酒田港にいた。
船着場では思ったよりも多くの人が乗船手続きをしている。アウトドアレジャーを楽しむ格好をした人々の一群は、ほぼ2種類のグループに分けられる。ひとつは釣り道具に大きなクーラーボックスを抱えた釣り人たち。もうひとつは大きなカメラと双眼鏡を首から下げたバードウォッチャーたちである。行きの航路からバードウォッチングを楽しむのに違いない。私もさっそく双眼鏡を取り出して、甲板へ出た。
いよいよ9時半に出航、飛島まで約一時間半の航路である。港はぐんぐん遠ざかり、代わりに右手には青空の中にくっきりと美しい山が見えてくる。きっと鳥海山だろう。視界は良好、やや北西の風が吹いているが、概ね穏やかな秋晴れの日本海である。

そんな海の風景に見惚れていた私は、周りが熱心に双眼鏡を覗いているのに気がついた。海鳥たちの群れが海面スレスレに舞っている。
少し下調べしておいた、これがオオミズナギドリかな、などと思いながら私も眺めていると、年配の男性に「そろそろ飛島が近づいてきたよ」声をかけられた。「あなたもバードウォッチング?」と聞かれたので、「全くの初心者ですけど、そうです」と答えた。
するとそのおじいさんは「今、飛島にはすごく珍しい鳥が来ていて、僕らの間では今その話題で持ちきりなんだよ。僕も予定を早めてきたんだ。僕たちが島に着くまでに、その鳥が島に留まっているかどうか……」と、言ってその鳥の名を教えてくれた。ノドジロムシクイというヨーロッパの鳥らしい。
どうやら、いま船に乗っているバードウォッチャーたちはみんな、その珍鳥を見たくてこの船に乗っているのだ、ということも分かった。

そんなバードウォッチャーたちの静かな興奮を乗せて、船は飛島の勝浦港についたのであった。


出航と同時に双眼鏡を構える熱心なバードウォッチャーたち。
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未知の細道 No.54

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。