山形県酒田市 飛島
民俗学者・宮本常一の本に魅せられて、
山形県の最北端、人口わずか230人あまりの小さな島、飛島へと旅に出た。
そこは珍鳥を見るためにバードウォッチャーたちが集まる、
日本屈指の渡り鳥たちの中継地であった。
一生をかけて地球の上を旅し続ける鳥たちと、それを追う人々のロマンとが交差する
この島で知った、興味深い鳥たちの生態とは……。
日本海東北自動車「酒田IC」または「酒田みなとIC」を下車、酒田港の定期船発着所へ(約15分)
日本海東北自動車「酒田IC」または「酒田みなとIC」を下車、酒田港の定期船発着所へ(約15分)
その生涯を旅に生き、徹底したフィールドワークをもって、戦前戦後を通じた日本の庶民の姿を浮き彫りにした民俗学者・宮本常一。
その名著の一つ『女の民俗誌』(岩波現代文庫)の中に、次のような一編がある。『飛島の女』という話だ。
——かつて本土には重罪人を島流しにする制度があったが、一方、島では罪人を本土(地方)に流す風習があった。これを地方流し(じかたながし)という。(宮本常一『女の民俗誌』より)——
山形県酒田市の北西39キロの沖合に浮かぶ、小さな島、飛島。
古来より飛島は酒田や鶴岡など庄内地方の港の船の風除けの地として、また廻船の中継地として重要な役割を果たしていた。
時は幕末から明治にかけて。この『飛島の女』の話には、罪を犯したわけでもない、ただ家業でのちょっとした失敗が原因で離縁された船宿の嫁が地方流しの目にあい、孤独のうちに現在の鶴岡市湯野浜あたりの飛島が見える丘に住み着き、やがて50年余りのち、彼女の人生の終末に訪れた数奇な運命が描かれている。
宮本常一の著述の面白さは、民俗学という学問の領域を超えて、無名の人々の息遣いが聞こえるかのような抜群のストーリーテリングにある。
私はこの話を読んで以来、なんとなく「飛島の女」のことが忘れられなくなった。
庄内平野からかすかに見える飛島に、帰りたくても帰れないまま、どんどん年老いていった女の気持ちは、いかばかりであっただろう。
そして「飛島の女」が帰りたかった、故郷とは一体どんなところなのだろう。
いつか飛島に行ってみたいものだ、と私は思うようになった。
松本美枝子