未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
54

旅する鳥たちを追って 渡り鳥が飛ぶ島 飛島


山形県酒田市 飛島

民俗学者・宮本常一の本に魅せられて、
山形県の最北端、人口わずか230人あまりの小さな島、飛島へと旅に出た。
そこは珍鳥を見るためにバードウォッチャーたちが集まる、
日本屈指の渡り鳥たちの中継地であった。
一生をかけて地球の上を旅し続ける鳥たちと、それを追う人々のロマンとが交差する
この島で知った、興味深い鳥たちの生態とは……。

文= 松本美枝子
写真= 簗川堅治(表紙、野鳥の写真)、松本美枝子(文中の写真、クレジット表記以外)
未知の細道 No.54 |10 Nobember 2015
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
山形県

日本海東北自動車「酒田IC」または「酒田みなとIC」を下車、酒田港の定期船発着所へ(約15分)

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#1『飛島の女』

その生涯を旅に生き、徹底したフィールドワークをもって、戦前戦後を通じた日本の庶民の姿を浮き彫りにした民俗学者・宮本常一。
その名著の一つ『女の民俗誌』(岩波現代文庫)の中に、次のような一編がある。『飛島の女』という話だ。

——かつて本土には重罪人を島流しにする制度があったが、一方、島では罪人を本土(地方)に流す風習があった。これを地方流し(じかたながし)という。(宮本常一『女の民俗誌』より)——
山形県酒田市の北西39キロの沖合に浮かぶ、小さな島、飛島。
古来より飛島は酒田や鶴岡など庄内地方の港の船の風除けの地として、また廻船の中継地として重要な役割を果たしていた。
時は幕末から明治にかけて。この『飛島の女』の話には、罪を犯したわけでもない、ただ家業でのちょっとした失敗が原因で離縁された船宿の嫁が地方流しの目にあい、孤独のうちに現在の鶴岡市湯野浜あたりの飛島が見える丘に住み着き、やがて50年余りのち、彼女の人生の終末に訪れた数奇な運命が描かれている。


飛島から見る庄内平野と鳥海山。

宮本常一の著述の面白さは、民俗学という学問の領域を超えて、無名の人々の息遣いが聞こえるかのような抜群のストーリーテリングにある。
私はこの話を読んで以来、なんとなく「飛島の女」のことが忘れられなくなった。
庄内平野からかすかに見える飛島に、帰りたくても帰れないまま、どんどん年老いていった女の気持ちは、いかばかりであっただろう。
そして「飛島の女」が帰りたかった、故郷とは一体どんなところなのだろう。
いつか飛島に行ってみたいものだ、と私は思うようになった。


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未知の細道 No.54

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。