話を聞きながら、私は床に敷かれた畳に寝っ転がってしばらく天井を見つめた。吹き抜けから飛び立つように鳳凰の翼があり、さらにその目線の先にある天井画では、空に白い馬が駆けていた。どちらも人間ではない生き物をテーマにした作品だ。そういえば、他のコーナーには、物言わぬ貝の気持ちを描いた作品や、南相馬の土から絵の具を作って製作された絵画作品もあった。考えてみると、津波や原発事故で被害を受けたのは人間だけではない。
「いま何人くらいの人が展示に参加しているんですか」と聞くと、「さあねえ、もう数えてないなあ!」と中筋さんは答えた。ちなみに開館当初に作られた公式パンフレットに載っているだけで22人で、その後も参加者は増え続けている。
表現の形態は問わない。平面作品、立体作品、ビデオ作品、短歌、絵本や漫画もある。そして、プロかアマチュアかも関係ない。参加者の多くがアーティストだが、なかには主婦や学校の先生などもいる。
「こういう看板があるから展示してくれと持ってくる近所の人がいたり、自分の写真を展示ししたいっていうおじさんがいたり。ほら、そこに、閉店した近所のラーメン屋さんの看板も飾ってある。おいしいラーメン屋でみんなが通っていたのに看板を捨てちゃうなんてもったいない。ちょっと待った!ってもらってきたんだよ。そうだ、午後から双葉屋旅館の女将の小林さんも来るよ。自分も作品を展示したいんだって言って」
午後になると、本当に小林友子さんが伝承館に現れた。想像していたより、小柄でかわいらしい雰囲気の女将さんだ。設置するのは、コウノトリをモチーフにした立体作品。コウノトリは、ウクライナでは平和と自由の象徴。現在戦火にあるウクライナに思いを馳せ、共に原発事故という苛烈な経験を共有する地に捧げる作品だ。
「どうやって展示したらいいかしら」と友子さんがにこにこしているうちに、近所の人がわらわらと集まって手伝いはじめた。そのうちのひとりは建具屋さんで、私たちが見ている前でてきぱきと作業が進んだ。近くに住むキリスト教の教会のシスターは、「わあ、コウノトリが来て、ずいぶん外が賑やかになりましたね!」と喜んでいる。設営が終わると、二匹のコウノトリをバックに、記念撮影も行われ、私は、おめでとうございますと声をかけた。
奇しくも、私が伝承館を訪ねたこの4月26日はチェルブリ原発事故からちょうど38年という日だった。