未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
248

栃木県鹿沼市

2010年6月、ある職人の人生が幕を閉じた。彼が生涯をかけてつくり続けたものは、箒と、その端材で生み出したオリジナルの郷土玩具。時代の波により跡継ぎはおらず、彼の技術は一代で途絶えるはずだった……孫娘が戻ってくるまでは。これは、生きるためにゼロから民芸品をつくった職人と、その孫娘の物語だ。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.248 |25 December 2023
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
栃木県鹿沼市

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#1仕方なく箒職人になった祖父

「おじいちゃんはね、本当は箒職人になりたくなかったんだって。学者になりたかったと聞いてます」

鹿沼箒ときびがら細工をつくる、増形早苗さん

そう語るのは、栃木県鹿沼市の伝統工芸品「鹿沼箒」の職人だった青木行雄さんの孫、増形早苗さん。早苗さんもまた、箒をつくる職人だ。その後継については後ほど記すとして、まずは、早苗さんから聞く青木さんの人生を追いかけてみる。

「鹿沼箒」は、全国各地にある箒のなかでも大きく、派手な色使いも目を引く。一番の特徴は、「ハマグリ」と呼ばれる箒と柄を結ぶ部分。美しさだけでなく、ちょっとやそっとでは外れることのない丈夫で機能的なつくりも、江戸時代から人々を魅了し続ける理由だ。箒の材料「ホウキモロコシ/ほうききび」の種が江戸から持ち込まれ、箒づくりが鹿沼に根付いた。多い時で300軒以上の箒屋があったという記録が残っている。

早苗さんの祖父、青木さんもまた、箒をつくる職人家系の父と、箒の材料を育てる農家の母の間に生まれた。まさに箒屋になるために生まれたような環境だったが、後を継ぎたくない一心で電気会社に就職したという。ところが身体を壊し、結局は家業を継ぐこととなった。

「不器用で、工作の評価はいつも一番下。ものづくりも好きじゃなかったし、箒屋という仕事にも魅力を感じていなかったみたいです」

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。