未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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生きるために生まれた郷土玩具 きびがら細工がつなぐ、祖父と孫の物語

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.248 |25 December 2023
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#11「そこまで」って、どこまで?

ある展示会で10歳の少年を虜にしたという九尾の狐。しゃんと伸びた背筋がかっこいい

青木さんが亡くなった時点で、周りの人たちが考えていたのは「技術を継げてよかったね、あとはほしい人がいたら作ったら」くらいのものだった。だから、早苗さんの「職人を本業にする」という決断は周囲を驚かせたし、反対もされたという。

「周りは当たり前のように、介護職に戻るか、実家の小間物屋を継げばいいと考えていたみたいで、『そこまで本腰入れてやらなくても……』という反応。29歳という年齢や女性であることもあって、絶対に無理だって言われました」

大きくて派手なハマグリがよしとされる鹿沼箒は、女性がつくったとしても夫の名前で売り出すほどに男性社会。それに加えて、箒もきびがら細工も市場は大きくない。周りが反対する理由は、いくらでもあった。それでも、早苗さんは道が続く限り進んでみることを選んだ。彼女のなかにはちゃんとした「やる理由」があったからだ。

「正直、私もこれで生活していけるとまでは思ってなかったんです。でも『ほしい』と言ってくれる人がひとりでもいる限りは作り続けたいという気持ちでした。そして、ひとりでも『ほしい』と言ってくれるなら、そのために技術を磨き続けなきゃいけない。磨き続けるためには、毎日作り続けられる環境を作らなきゃいけない。そのためにはこれで食べていかなきゃいけない、と思ったんです」

連想ゲームのようにつながっていった先に、今の早苗さんの生き方がある。理由がわからなければ学校から荷物をまとめて家に帰ってしまうような中学生だった早苗さんは、逆にやる理由を見つけた今、常に全力で技術を磨き続けている。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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