今、鹿沼箒ときびがら細工を作れる職人は、早苗さんたったひとりになった。取材などを受ける機会も多く、きっと「これからのこと」はさまざまな人から尋ねられると同時に、彼女自身のなかでも考え続けていること。だからこそ、祖父が生み出したきびがら細工の唯一の継承者として、今の早苗さんが感じていることを聞いてみたかった。
「残す・残さないを決めるのは、私じゃないと思うんですよね。私自身が周りの熱量に動かされてきびがら細工を作り始めたように、誰かが『これを残したい』と思ってくれて初めて残っていくものだなと。それは逆に、人々が『残したい』と思える魅力的な作品を私が作らなきゃいけない、ということでもあります」
そこで、早苗さんが引用したのは、祖父・青木さんの言葉だった。
「おじいちゃんは『残る・残らないは世間様次第』と言ってました。それにはふたつの意味があったと解釈しています。ひとつは時代によって残るかどうかが決まる場合があること。もうひとつは、見てくれた誰かがいいと思うものを作れ、ということ。そういうものを作り続けていれば、きっと誰かがまた残したいと思ってくれる。今はそういう方々が周りにいるから、悲観はしてないんです」
青木さんが生き残るために必死で身につけた「買い手・使い手はどう思うのか」という感覚は、しっかりと早苗さんに受け継がれている。独りよがりではなく、届ける相手のことを想う姿勢が、きびがら細工が郷土玩具として愛される理由なのかもしれない。
「それにね」と、早苗さんは最後に付け加えた。
「たとえ、きびがら細工がなくなったとしても。この社会全体に、食べるでもなく遊ぶでもなく、ただ見て『かわいいね』と思うものを愛でる気持ちが残っていれば、いつかきっとまた生まれるから大丈夫って思っています」
帰り際、小さなウサギのきびがら細工をいただいた。子ウサギがくるっとまるまって座っているようなフォルムは、やっぱりかわいい。卯年が明けても、この子は飾り続けようと思った。