未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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生きるために生まれた郷土玩具 きびがら細工がつなぐ、祖父と孫の物語

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.248 |25 December 2023
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#102年間で教わった、大事なこと

自然植物のため、太さや中の空洞の大きさなどもそれぞれ

青木さんと早苗さんが師弟として並んで座ったのは、たった2年間のことだった。いつものように「また明日」と別れた翌朝、青木さんはそのまま起きてこなかったのだ。

「もちろん悲しかったけれど、ようやくおばあちゃんのところに行けてよかったなって気持ちが強かったです。ただ、亡くなったのが、よりにもよって私が一番苦手だった寅の制作年。そこからはおじいちゃんのきびがら細工を見ながら、“私のきびがら細工”づくりが始まりました」

きびがら細工を伝える時、青木さんはいつも「自由にやっていい」と言ったという。発案者として「こうじゃなきゃいけない」という教え方はしなかった。青木さんと自分の作品を比べて悩む早苗さんに向かって、「そもそも俺が作ったものなんだから、決まりがないんだよ。俺のいいと思うものと早苗がいいと思うものは違うんだから」と話したという。

「まあそうだよなって私も思って、自分がいいと思ったらこれでいいんだと思えるようになりました。おじいちゃんを目指すんじゃなくて、自分の一番を目指せばいい、と。そう言い遺してくれたから、やりやすいですよね」

長年受け継がれて作り方がしっかりと決まっている鹿沼箒と、自由に形を変えられるきびがら細工。同じ材料から作られる対極的なふたつの作品づくりを、青木さん自身も楽しんでいたんじゃないかと早苗さんは言う。

現在、鹿沼市内にある「木のふるさと伝統工芸館」では、青木さんのつくった鹿沼箒ときびがら細工が展示されている。そしてお土産物として、早苗さんのきびがら細工も並ぶ。青木さんの勢いのある動物たちと、早苗さんのかわいらしいきびがら細工、ふたりが目指したそれぞれの「一番」を感じてみてほしい。

「木のふるさと伝統工芸館」に展示されている、青木さんのきびがら細工たち
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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