未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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生きるために生まれた郷土玩具 きびがら細工がつなぐ、祖父と孫の物語

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.248 |25 December 2023
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#8もらったものを生かしたい

手伝い始めてみると、青木さんよりも周りの人たちのほうが「後継ぎができてよかったね!」と喜んだという。そこから徐々に、早苗さんのなかで「おじいちゃんと自分のため」だったものが、少しずつ変化していった。おじいちゃんの生み出した技術を自分が継ぐ、せめて次の誰かにつなぐまで。

「職人になれる自信はまったくなかったです。ただ、応援や期待をしてくれてる人がいるのに、やってもないのにノーって言っちゃダメだ、と思いました」

これまでも、小舟が水の流れのままに川を進むように、人生が開く方向に進んできたという早苗さん。この時も「目の前の道に進んでみたい」という気持ちで、青木さんに「継がせてほしい」と頭を下げたという。

「“やりたかったのに、できなかった人たち”がいるんですよね。箒に関しても、時代の流れが許さなかった人たちがいっぱいいた。そのなかで、私はたまたま機会をもらったのに、それを『やらない』は違うぞと思ったから。進路や就職に関しても、目標を立ててそこに向かうというよりも、『もらったものを生かさなきゃ』って思うタイプなんだろうなと思います」

戦後の大きな荒波のなか、箒をつくり続けたいと思いながら転職せざるを得なかった人、後を継ぎたいと思いながらもほかの仕事に就いた人が、きっとどこかにいた。彼らの前には開かなかった扉が、早苗さんの前には開いている。それを自ら閉じる選択肢はなかった。

「もう本当に瀬戸際なわけですよね。完全に消えてしまうのか、ほんの1ミリでもなにかを残せるか。大きい声で『私がやります!』と言えるほどの自信はないけれど、とにかくおじいちゃんに『継がせてください』と言ったんです」

祖父の返事は「そうか」と、そっけないものだった。それでも翌朝、早苗さんが工房に着くと、以前のようにしゃっきりと座る祖父の姿があった。隣に、早苗さんの分の道具もしっかりと揃えて。

工房内に保管されているほうききびのほとんどが、きびがら細工がなければ捨てられてしまう部分
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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