茨城県大子町
高級漆器にも使われる大子漆(だいごうるし)を産出するまち、茨城県大子町。このまちに、漆の木を自ら育て、漆の樹液を掻き、漆器をつくり続ける「木漆工芸作家」がいる。
最寄りのICから【E4】東北自動車道「宇都宮IC」を下車
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行儀よく並ぶ漆の木を見て、美しいと思った。
漆の木を見るのは初めてだ。いや、どこかで目にしたことはあったのかもしれないが、恥ずかしながら「漆の木」があることすら知らなかった。
「輪島塗(石川県)」や「会津塗(福島県)」などで有名な、ツヤツヤと輝く漆器。これらの塗料である「漆」は、漆の木から採取される樹液を精製してつくったものだ。
茨城県大子町で採れる「大子漆(だいごうるし)」は、透明感が高く、上質なツヤが出るのが特徴。国内で流通する漆のうち、国内産は5%たらずで、輪島塗などの高級漆器の仕上げには必ず大子漆が使われる。
ちなみに「漆掻き」と呼ばれる樹液の採取は、誰でもできるわけではない。「漆掻き職人」が専用の刃物を使って、6~10月に5カ月かけて採取する。
1本の漆の木から採取できる樹液は、たったの180cc。コップ1杯分だ。この180ccを採取するために漆の木を10年間育て、樹液を掻いたのち1年で伐採する。
お椀ひとつに漆を10グラム使うから、漆の木1本からつくれるお椀は約18個。
これだけでも、漆器がどれだけの手間ひまをかけてつくられるものかご理解いただけただろう。
岩手県に次いで、全国2位の漆の産地である茨城県。茨城県産の漆の大半を産出する大子町で、漆器ブランド「八溝塗(やみぞぬり)」をつくったのが木漆工芸作家・辻徹さんだ。
なんと辻さんは、苗から漆の木を育て、漆の樹液を掻き、木を伐採し、漆器をつくる、すべての工程を自ら行っている。これらの工程は分業するのが一般的で、辻さんのような一貫したスタイルは全国でもほぼ例をみない。
もともと作品づくりだけをしていた辻さんは、なぜすべてを担うようになったのだろう。