大学では漆について学べたものの、やりたかった木工の授業がない。そこでまた、辻さんは行動を起こす。
「墨田区にある大工道具を扱う店『井上刃物店』に入り浸って、店主や店にくる大工さんに話を聞きました。木材の切り方や道具の使い方を教えてもらいながら、独学で木工を学んだんです」
「なぜそのお店に通おうと思ったんですか?」と聞くと、辻さんの人柄が垣間見えるような答えが返ってきた。
「いくつか老舗の刃物店に買い物に行ったんです。その時にね、わざとチャラい格好で行くんですよ。すると、なかには格好で判断してまともに取り合ってくれない人がいる。そういう店には二度といきません。井上刃物店は、見た目で判断せずに、嫌な顔ひとつせず接してくれました。それからは井上刃物店にしか行ってないです」
大学院卒業後は、木工を本格的に学びたいと富山県の短期大学へ。研究生として1年間学んだのち、1991年、茨城県にある「美和村ふれあい工芸センター」で指導員として約5年勤務する。
「美和村は、スギやヒノキを産出するまちです。『地元の素材を使って工芸品をつくってほしい』と知り合いに呼ばれて、器を中心につくっていました」