辻さんは1963年に北海道札幌市で生まれ、大学進学まで地元で過ごした。親族にはデザイナーや音楽家など、芸術に関する仕事をする人が多く、辻さん自身も幼い時から工作が大好きだったという。
「小学校の工作クラブで、木を掘ってトーテムポールをつくったのを覚えています。あとは中学時代、プラモデルをつくることにハマって、タミヤの『人形改造コンテスト』で入賞したことがありました。入選するのは大人ばかりだったので、嬉しかったなぁ」
モノづくりの道を志したのは、高校2年生の冬。当時サックスを習っていた先生に「美術関係の大学に進みたい」と打ち明けると、「こんなことしてる場合じゃない。すぐにデッサンの予備校に通いなさい」と言われ、勉強を始めた。
漠然と「自然素材を使ったものづくりがしたい」と考えていた辻さんが憧れたのは「染織」だった。
染織家になるためには? と考えた末の辻少年の行動は、想像の斜め上をゆく......。
「高校の修学旅行が京都だったんですが、そこで人間国宝の染織家に会いに行こうと思いました。友人たちに『頼むから先生に言わないで』とお願いしてひとりで抜けて、向かったんです」
もちろんアポなしである。門を叩くと、出てきたのは自分と同年代の女の子。当然丁重に断られたが、「染織家になるために、こんな年齢から弟子入りしてるんだ。じゃあ自分には無理だよな」と、かえって諦めがついた。
新たに選んだのは、同じく自然素材である木工や漆。辻さんは、東京藝術大学の工芸科に進み、漆について学び始めた。