未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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漆の木を自ら育てる「木漆工芸作家」を訪ねる 使えば使うほど育つ、大子漆の器

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.247 |11 December 2023
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#3修学旅行を抜け出して、人間国宝のもとへ

辻さんは1963年に北海道札幌市で生まれ、大学進学まで地元で過ごした。親族にはデザイナーや音楽家など、芸術に関する仕事をする人が多く、辻さん自身も幼い時から工作が大好きだったという。

「小学校の工作クラブで、木を掘ってトーテムポールをつくったのを覚えています。あとは中学時代、プラモデルをつくることにハマって、タミヤの『人形改造コンテスト』で入賞したことがありました。入選するのは大人ばかりだったので、嬉しかったなぁ」

モノづくりの道を志したのは、高校2年生の冬。当時サックスを習っていた先生に「美術関係の大学に進みたい」と打ち明けると、「こんなことしてる場合じゃない。すぐにデッサンの予備校に通いなさい」と言われ、勉強を始めた。

漠然と「自然素材を使ったものづくりがしたい」と考えていた辻さんが憧れたのは「染織」だった。

染織家になるためには? と考えた末の辻少年の行動は、想像の斜め上をゆく......。

「高校の修学旅行が京都だったんですが、そこで人間国宝の染織家に会いに行こうと思いました。友人たちに『頼むから先生に言わないで』とお願いしてひとりで抜けて、向かったんです」

もちろんアポなしである。門を叩くと、出てきたのは自分と同年代の女の子。当然丁重に断られたが、「染織家になるために、こんな年齢から弟子入りしてるんだ。じゃあ自分には無理だよな」と、かえって諦めがついた。

新たに選んだのは、同じく自然素材である木工や漆。辻さんは、東京藝術大学の工芸科に進み、漆について学び始めた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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