器而庵から車で30分ほどの場所にある工房にも案内してもらえることになった。山道を走っている途中、辻さんが脇道に車を止め、山の方へ歩いていく。ついていくと、漆の木があらわれた。思ったよりも細く、ひょろっとしている。
これらすベて、辻さんが苗から育てた漆の木である。
こうして漆の木を育てている場所が、大子町~常陸大宮にかけて約10箇所に点在する。計3ヘクタール、約1500本の漆の木を管理するのは、辻さんのほか、社員の女性のみ。1カ月半ごとに草刈りをして、幹から生える枝を切るそうだ。
東京ドームが4.6ヘクタールだと考えると、これほどの土地を2人で管理するのがどれほど大変か想像にかたくない。
ところで、土地はどのように探しているのだろう? 気になって聞いてみると、すべての土地に辻さんが足を運び、土壌を選んでいるという。
「緩斜面で水はけがいい場所が、漆に適しています。土地を探す時は、国土交通省が公開する土壌マップで当たりを付けて、日当たりや周辺環境をチェックしに行きますね。問題なければ地主に交渉します。あと大切なのは、周りに漆嫌いな人がいないかどうか。近隣の民家を一軒一軒訪ねて、私がやっていることへの理解を得ています。地域でなにかを始めるには大切なことですから」