未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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漆の木を自ら育てる「木漆工芸作家」を訪ねる 使えば使うほど育つ、大子漆の器

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.247 |11 December 2023
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#71500本の漆の木を2人で

器而庵から車で30分ほどの場所にある工房にも案内してもらえることになった。山道を走っている途中、辻さんが脇道に車を止め、山の方へ歩いていく。ついていくと、漆の木があらわれた。思ったよりも細く、ひょろっとしている。

6月初旬には黄緑色の小さな花が咲く。すずらんのような優しい香りがするそう

これらすベて、辻さんが苗から育てた漆の木である。

こうして漆の木を育てている場所が、大子町~常陸大宮にかけて約10箇所に点在する。計3ヘクタール、約1500本の漆の木を管理するのは、辻さんのほか、社員の女性のみ。1カ月半ごとに草刈りをして、幹から生える枝を切るそうだ。

東京ドームが4.6ヘクタールだと考えると、これほどの土地を2人で管理するのがどれほど大変か想像にかたくない。

ところで、土地はどのように探しているのだろう? 気になって聞いてみると、すべての土地に辻さんが足を運び、土壌を選んでいるという。

「緩斜面で水はけがいい場所が、漆に適しています。土地を探す時は、国土交通省が公開する土壌マップで当たりを付けて、日当たりや周辺環境をチェックしに行きますね。問題なければ地主に交渉します。あと大切なのは、周りに漆嫌いな人がいないかどうか。近隣の民家を一軒一軒訪ねて、私がやっていることへの理解を得ています。地域でなにかを始めるには大切なことですから」

3年目の漆の木。等間隔で植えられているのは、「職人気質な自分の性格によるもの」と辻さんは笑う
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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