「ブランドもののスーツを着て、茶色い革靴を履いて、商社や大手メーカーにどんどん友達を作って、ファイナンスを中心とした新しいビジネススキーム作ろうとギラギラしてました(笑)」
オリックスに中途入社していた山内さんは、金融や不動産の専門家として知識と経験が足りないと自覚し、MBAを取るために大学院に通い始めた。そこには企業の経営者、後継ぎ、コンサルタントなどが集っていた。
そこで大きな刺激を受けながら学んでいたある日、社内メールで「スカイツリーの水族館プロジェクト リーダー募集」という告知を目にした。
山内さんは子どもの頃から、海や川の生物が好きだった。父方の祖父母は新潟に住んでいて、家の近くには川が流れていた。夏休みに訪ねた時には、毎日のようにその川で遊んだ。千葉県の鴨川に住む母方の祖父母が稲作をしていた田んぼも、遊び場だった。「鴨川シーワールドに連れて行ってもらうのが、夏休みの一番の楽しみでしたね」と振り返る。大人になっても水族館が好きで、妻と国内外の水族館を巡っていた。
それまで社内で業績を上げて出世しようとバリバリ働いていたのに、「水族館プロジェクト」の募集を見て、グラグラと心が動いた。それは、大学院で出会った人たちの影響が大きいという。
「自分の名前と腕で稼ぐ人たちばかりだったから、僕もどうにかなるんじゃないかと思ったんですよね。それに、水族館の公募をかけた事業部長がすごく面白い人で、水族館プロジェクトは会社のお金でする起業みたいなものだし、面白いことができるよと誘ってくれたんです」
妻も「そういうの好きでしょ」と背中を押してくれたこともあり、思い切って応募。すると、100名弱いた応募者のなかから選ばれた。直属の上司や人事部から、「本流から外れると、戻れなくなるかもしれない。考え直せ」と言われても、気持ちは変わらなかった。