2015年、すみだ水族館の館長に就任した山内さんは、丸3年で退任することになった。本社で九州地方のとある有名商業施設内に新しい水族館を作るプロジェクトが立ち上がり、責任者として山内さんに白羽の矢が立ったのだ。
しかし、交渉過程で計画がとん挫。会社の経営方針が変わり、水族館の事業自体が縮小路線になった。金融や不動産の仕事に戻るという選択肢もあったが、山内さんは退職を選んだ。
「同期に話を聞いたら、リーマンショックを経てオリックスの金融セグメントは僕がいた時とビジネスモデルが大きく変わっていて、ちょっと難しいかなと思って。それに、もっと水族館の業界にいたいという思いもありました」
転職先は、小田急電鉄子会社の設計会社UDS。すみだ水族館で一緒に仕事をしたことが、縁になった。山内さんはここで、水族館を中心としたミュージアム事業のコンサルタントとして頭角を現す。主な仕事は、施設の基本構想や展示プランの見直し。例えば、ある水族館の建設計画を見て、「この水槽のスペックでこの生き物を飼うなら、もっとスペースを縮小できる。空いたスペースに飲食店を入れたら、賃料を得ることができますよ」などと提案をするのだ。
不動産の価値を高める視点を持ちながら、水族館をイチから作り、かつ施設の現場を取り仕切る館長を経験したプロは少ない。もともと日本の水族館は、狭いスペースでいかに多彩な水の世界を見せるかという点で高く評価されており、山内さんの仕事は中国、ミャンマー、台湾など海外にも広がった。
そのうちに、「自分たちで水族館を運営したい」という思いが芽生えた。
「どんどんコンサルティングの案件が増えて、同時に5、6件進めている時期もありました。でもやっぱり、こちらが提案した通りにはならないんですよ。せっかく本気でプランを考えても、計画が途中で中止になることもあったし、OKが出た提案がひっくり返ることもありました。それで、自分たちのプランをまっとうしたいと思うようになったんです」