UDSでこの思いが実現することはなかった。新型コロナウイルスのパンデミックにより、水族館の運営という未知の事業に手を出す余裕がなくなってしまったのだ。
山内さんは、水族館建設に向けての設計と運営のプロジェクトが進んでいた札幌のビルを保有する会社に、この事業から手を引くかもしれないと相談に行った。自ら提案した事業を、一方的に引き下げるという手の平を返す振る舞いに、先方は怒りを露わにした。
その時、山内さんの口から、本心が漏れた。
「個人的にやりたいです」
それを聞いたビルを保有する会社の担当役員は、こう言った。
「正しいと思うことをやってくれたらいいよ」
その瞬間、山内さんの心は決まった。
「そうか、正しいことか。それは自分で水族館をやることだ」
2022年9月、「株式会社 青々」を設立。翌月にUDSを退職し、11月、正式にアオアオ サッポロの運営事業者として契約を交わした。
「作るだけで何十億円もかかるこの水族館の運営を、設立したばかりの実績がない会社に任せてくれるのか、9月に独立した時点でも半信半疑だったので、11月に最初の振り込みがあった時は本当に嬉しかったですね」