バーや居酒屋、フランス料理店といった飲食店、酒販店、個人客など、複数の販売チャネルの開拓を積極的に進めたことが功を奏し、コロナ禍でも毎年売り上げ目標を達成してきた林檎学校醸造所。小野さんにはいま、数年先を見据え新たに温めている計画がある。
それは、3年熟成のヴィンテージシードルの製造。ワインやシャンパンと同じようにシードルもまた、数年寝かせることで味わいが変化し、よりおいしくなるという。
「体育館の下に、半地下の物置スペースがあります。夏場でも温度を一定に保ちやすいその場所で、3年間熟成させてから販売する『卒業シリーズ』をつくろうと計画中です」
背景には熟成シードルのおいしさを知ってほしいという思いに加え、農家を悩ませる凍霜害(とうそうがい)の問題があった。
凍霜害とは、リンゴの開花シーズンである春先に気温が下がり、霜が降りることで作物に生じる被害のこと。雄しべと雌しべが凍って受粉できなくなり、実がならず生産量がガクンと落ち込んでしまうのだ。3年熟成計画が実現すれば、収穫量が少ない年は、豊作の年に多めに仕込んだヴィンテージシードルの販売ができるため経営の安定につながる。
小野さんは最後に林檎学校醸造所の校訓を教えてくれた。ひとつ目は、学力向上ならぬ「楽力幸醸」。楽しむ力が幸せを醸すという信念のもと、シードルをつくる時も飲む時も楽しんでもらうことを第一に掲げている。
もうひとつが2023年度から新たに仲間入りした「美酒共創」。シードルの味の7割から8割を決めると言われている原料の生産者であるリンゴ農家、販売先の飲食店や酒販店と一緒に、お客さんに喜んでもらえる「おいしいお酒をともにつくっていく」という思いが込められている。
生産者、醸造所、販売店の思いをのせ、廃校生まれのこだわりのシードルは、今日もどこかの食卓を華やかに彩っているだろう。