「マルシェに出店したり、飲食店さんに営業に行ったりしましたが、知名度の低いシードルはなかなか採用してもらえませんでした」
苦戦を強いられる日々が5年ほど続いた頃、都内で農家直送の食材を売りにしたレストランがブームになった。つられるように、小野さんが売り込むリンゴ農家直送のシードルにも注目が集まり、採用してくれる飲食店が増え始めた。
時を同じくしてJR東日本が青森県でシードル醸造所を開業。その5年後の2015年には、キリンビールがキリンハードシードルのポップアップストアを期間限定で東京・表参道に出店した。
大企業も参入し、徐々に市民権を獲得しているように見えたシードル。この時期、小野さんは、家業の承継と将来の農業経営について考えるNPO法人の活動を通して知り合った友人から、ある言葉をかけられる。
「ビールやワインに比べて印象が薄いシードルを広めていくなら、みんなでまとまって活動する必要があるんじゃないの」
苦味が少なくフルーティーで低アルコール。シードルに大きな魅力と可能性を感じていた小野さんは、知人の言葉に背中を押され、それならばと半ば勢いで「日本シードルマスター協会」を立ち上げた。両親がシードルの委託醸造を始めて10年後の2015年春のことだった。