林檎学校醸造所では設立当初から、自社ブランドの製造だけでなく、依頼主の声を反映させたオーダーメードの委託醸造に力を入れてきた。リンゴ農家や酒販店、飲食店など委託醸造の依頼主は、醸造作業を体験することができる。
「これまで最も遠いところでは、北海道在住の方からシードルづくりを学びたいと委託醸造を依頼されました。その方は2023年4月にご自身のシードル醸造施設を北海道の足寄町でオープンされ、いまも交流が続いています」
シードルを卸している飲食店の店長らが研修に訪れる際は、作業体験後にリンゴやシードルに関するセミナーを開くこともあるという。
「日本酒やワインもそうですが、お酒って、つくり手のこだわりやテーブルに届くまでのストーリーを聞くと一層魅力を感じて飲みたくなりませんか? シードルを製造・販売する農園や飲食店の方々に醸造過程を知っていただくことで、商品と一緒にストーリーもお届けできればと思っています」
小野さんはこの春、学校を訪れた人に気軽にリンゴの木を見てもらえるようにと、醸造所の前の花壇に2本の「高坂林檎」の木を植えた。
実はリンゴには「西洋リンゴ」と「和林檎」の2種類があり、私たちが普段食べているのは、明治時代に日本に入ってきた西洋リンゴ。それより前に日本で親しまれていた和林檎は、現在ほとんど栽培されていない。小野さんが花壇に植えた「高坂林檎」は貴重な和林檎のひとつで、飯綱町の天然記念物にも指定されている。
「甘味、酸味、渋みがあり、実が裂けやすく扱いが難しいため、生食には向いていませんが、シードルに用いると個性的な味わいを出すことができます。300年以上の歴史を持つ高坂林檎をシードルに活用しようと、パートナーの農家の方々の協力も仰ぎながら積極的に栽培を進めているところです」