未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本一深い海は宝の山だった 深海魚の「聖地」を巡る

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.235 |12 June 2023
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#6サービスが生まれたきっかけはコロナ禍の漁業衰退

だが2020年、新型コロナウイルスの影響を受け、状況が一変する。漁業は活気を失い、イベントもすべてなくなった。

2020年4月中旬、前述した「深海魚直送便」の構想を固めてからの青山さんの行動は早かった。戸田漁業協同組合、関係性ができている漁師、ヤマト運輸と連携し、2週間後の4月末には第1便を発送したのだ。

「コロナ禍で発送先のお客さんはみんな家にいたから、新鮮な魚を受け取ってもらいやすいというメリットもありました。1箱5000円で30箱販売するとSNSやプレスリリースで告知したら、注文が殺到したんです」

傷むのが早いため地元で消費されるのが一般的だった深海魚を、全国の家庭に届ける斬新なサービスに、客からは「捌く前に写真を撮って楽しみました!」「子どもがどんな魚か調べたあと、自分で捌いていました!」と、嬉しい声が届いた。

また、サイズが不揃いだったり、傷があったりして市場に出せない「未利用魚」も丸ごと買い取ったため、漁師からも喜ばれた。

深海魚を選別する青山さん。写真提供:青山沙織さん

深海魚直送便は青山さん自ら船に乗り、魚を選別し、発泡スチロールに詰めて発送する。当時はECサイトがなかったため、膨大な時間をかけてgoogleフォームで注文を集計した。一息つこうとすると、今度は問い合わせの電話が鳴り響く。「寝る時間がなくて大変だった」と振り返り、苦笑いする。

「当初は問い合わせやクレームが多くて。『どれがなんの魚かわからない』『見栄えが悪い』などのクレームがくるので、魚のリストを入れたり、見栄えをよくするために氷の上にシートをひいたり。お客さんからの声でどんどん改善されていきました」

ここまで聞くと幸先の良いスタートに思える。だが、新しいことを始めると、反発の声があがるのも世の常だ。

「一部の漁師さんから『役所管轄の人間が、なぜ勝手にこんなサービスをやってるんだ』と市役所にクレームが入ることがありました。でも今では、その漁師さんも同じようなサービスを始めたらしいんですよ。私の始めたことが戸田全体の活気につながったので結果的にはよかったです」

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