館内には、町中や飲食店で何度も見かけたタカアシガニのお面が展示されていた。甲羅に描かれる大きな目にへの字の口。真ん中の凹凸がちょうど鼻の形になっている。お面作りの第一人者とも言える、勝呂(すぐろ)満夫さんが作ったものだという。
戸田の特産品だというタカアシガニのお面の歴史を、筒井さんに聞いてみた。
「戸田では大正時代の頃からタカアシガニの甲羅に鬼の絵や、人の顔などを描いていたと言われています。疫病の流行をきっかけに、魔よけや厄病除けの意味合いで玄関先に飾っていたようです。今でも飾ってある家がたくさんありますよ」
長らく続く伝統的なお面だが、勝呂さんが他界したあとは作り手が減少し、お面が町から消えかけたこともあった。そこで絵の上手い漁師が立ち上がり、再びお面づくりを始めて地域住民や観光客の目に触れるようになったそうだ。
筒井さんも漁師から作り方を継承し、地域の子どもたちと一緒にお面づくりをしている。特別な技法は必要なく、水彩絵具で描けるという。
「伝統を絶やさないようにと、毎年戸田の子どもたちを当館に呼び、お面づくりをしています。要望があれば、私が出張してワークショップを開くこともあります。子どもたちも、あんな大きなカニの甲羅に絵を書く体験なんてなかなかないですから楽しんでいますよ」
戸田の町を歩いている時、アニメのキャラクターや動物の絵を描いたお面を飾っている店を見かけた。厄除けや魔除けのほか、アートとしても親しまれているのかもしれない。
時代に合わせて少しずつ形を変えながらも、地域の人たちの想いは受け継がれていくんだなぁ、と鬼の顔を見ながら考えた。