未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本一深い海は宝の山だった 深海魚の「聖地」を巡る

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.235 |12 June 2023
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#8世界一大きなカニを食す

時計に目をやると、ちょうどお昼の12時を指していた。私は、青山さんにおすすめしてもらった深海魚料理屋「魚清」に向うことにした。場所を確認するために、くるら戸田で手に入れた地図を広げる。近い!

青山さん曰く「お店の真ん中に大きな生簀があって、その中にタカアシガニがたくさんいるんですよ!」とのこと。

私はさっそく車を走らせた。くるら戸田から5分で到着した「魚清」は、戸田漁港の目の前にあった。

戸田の特産品であるタカアシガニ。

早速店内に入ると、本当に店のど真ん中に生簀が! 想像以上に大きなタカアシガニの姿に圧倒されてしまった。さすが世界最大の甲殻類と言われているだけある。

少し離れた客席から、タカアシガニの定食を注文する声が聞こえた。店員さんはその場で生簀から大きなカニを掬い上げ、「これでいいですか? 写真撮ります?」と確認する。注文したカップルは嬉しそうに、自分の顔より大きな甲羅のカニを抱えて写真を撮っていた。

お茶を持ってきてくれた店員さんにオススメを尋ねると、「高足がに定食」(税込6820円)とのこと。タカアシガニと、今朝獲れたての深海魚の刺身がついていると言うので注文する。

「生簀、大きいですね」と店員さんに話しかけると、「目の前の海と地下で繋がっていて、海水を引っ張ってきています。だから満ち潮の時は、生簀の水位もグッと上がるんですよ」と教えてくれた。

定食が運ばれてくるまでの間、生簀に目を向ける。タカアシガニは深海200~500メートルの場所で獲れるそうだ。ちなみに深さ200メートル以上の深海で生きる魚介類を「深海魚」と呼ぶらしい。

深海に生息するタカアシガニだが、店内に連れてこられても弱ることなく威勢がいい。生簀のへりに足をかけ、今にも脱走しそう。ハラハラしながら見ていると、店員さんが棒でカニをつつき、生簀に戻していた。

しばらくすると、定食が運ばれてきた。タカアシガニ、深海魚の刺身、フライ......あまりのボリュームに「ぜんぶ食べられるかな」と不安がよぎる。「本日の深海魚は、メギス、トロダコ、本えびです」と店員さん。

メギスの刺身が、比喩ではなくキラキラと輝いている。昔、小さな港町で育った母から「あたらしい(新鮮な)魚はキラキラ光ってるんやで」と教えてもらったことを思い出しながら、メギスを頬張った。

癖のない味と、ほどよい脂がおいしい! メギスをフライにした串も1本ついている。おぉ、身がふっくらやわらかい。白身魚だけれど、ジュワっと脂があふれる。

続いては本命のタカアシガニ。身がギュッと詰まっていて甘い!「蟹味噌と身を混ぜて、ご飯に乗っけてもおいしいですよ」と教えてもらい、食べてみる。コクがあって白米が進む、最高のご飯のお供だ。

当初の不安はどこへやら、あっという間に深海魚たちは私の胃のなかにおさまった。

編集長から「深海魚料理食べてきて!」と言われた時、深海魚のおどろおどろしい姿を想像して「おいしいのだろうか」と半信半疑だった自分が嘘のようだった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
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