閉館間際、筒井さんと別れ、深海魚展示エリアに戻った。なかには、中年の夫婦、娘さん、娘さんの友達という四人連れがいた。深海魚パネルを置いたブースで、楽しそうに撮影している。
「ご旅行ですか?」と話しかけると、「静岡市内在住だが、深海生物館には初めて訪れた」という。来館のきっかけは、娘さんの職場の先輩が激推ししたこと。沼津には、生きた深海魚を見られる沼津港深海水族館もあるのに、なぜこっちを勧めたのだろう?
「魚好きの先輩だったんですけど、ぜひ駿河湾深海生物館にって。すっごく素朴な施設で、深海魚と一緒に展示されている解説がおもしろいからって」
筒井さんも言っていたように、コアなファンが多いようだ。確かにこの施設、稀少な深海魚が展示されているだけではない。魚のレア度や、カップラーメンの容器に深海の水圧をかけた写真、おいしい深海魚料理など、ユニークな案内板がいたるところに設置されている。謎の多い深海や深海生物を、多方面から知ることができるのだ。
深海魚料理は食べましたか? と聞くと、「静岡に住んでいるから魚はよく食べるんですけど、深海魚は食べたことないんですよ」と渋い顔のお父さん。「タカアシガニとメギスの刺身がおいしかったですよ」と話すと、「へえ、そうなの?カニはおいしそうだけど......」とイマイチな反応。深海魚を食す前の私と同じく、ゲテモノ料理を想像しているのかもしれない。
「おいしい深海魚展示コーナー」にお連れすると、「キンメって深海魚なの!? 知らなかった! 俺、深海魚食べたことあったのか......」と心底驚いていた。
深海魚のおいしさも、医薬品の研究に使われるほどの貴重さも、そして戸田の歴史も、まだまだ知られていないのだ。味わって、体験して初めてわかる、駿河湾のように深い魅力が戸田の町にはある。