さまざまな形で、食と人とのあいだに道を開いてきたやすさんのまわりには、いろいろな生業を持つ人たちが集まった。料理家、写真家、DJ、音響エンジニア、紙芝居師、植物デコレーター、エシカルウェディングプランナー、養蜂家……と多岐に渡る、個性的な人たちばかり。
やすさんが草刈機を片手に途方にくれたジャングルに、今は大勢の人が集まって、一緒にとびきりの秘密基地を作っている。オープンから13年、SYOKU-YABO農園はこれからさらに新しい取り組みを始めようとしている。
「時代の流れやコロナ禍で失われつつある"生のコミュニケーション"ができる場を作っていきたいなって、今みんなと考えているところ。13年も続けていたら、もう新しいことなんか作れないんじゃないと思うんだけど、SYOKU-YABO農園には限界がない。どんどん変化していける可能性を秘めているなと思うんだよね。そういうのも、自分のひとりの力だけでできるわけじゃない。SYOKU-YABO農園をみんなで囲みながら『じゃあここでなにかやってこうよ』って言い合えるのが、健全なこれからのあり方だと思う」
最後に、SYOKU-YABO農園のどんなところが人を惹きつけるんでしょうね、と聞いてみた。自分ではよくわからないなあと、やすさんは笑った。
「人間ってやっぱり"自然"というものに惹かれるんだろうな、とは思うんだよね。小川のせせらぎ、虫や鳥の声、木々の音がここには全部ある。でも、それだけじゃなくて、新しいなにかが共存しているから人は魅力を感じるのかなと思う。人間が手を入れたところって、やっぱりおもしろみを感じるし、そこにアートや音楽みたいなものが絡むと、もっとおもしろい。SYOKU-YABO農園では、それをみんなの力で作り上げてきたってことかな」
手付かずで、ただただジャングルが広がっていた場所に、やすさんが手を入れて、そこに多くの人たちが自分たちらしい彩を加えてきた。誰のデータベースにもないような、唯一無二の場所。SYOKU-YABO農園には、感性を呼び覚ます驚きやおいしさが詰まっている。
インタビューの最後、やすさんが「こうやって話してみると、俺の人生がここに集約されてるんだなあ」と言った。出会った土地、無農薬野菜を育てる畑、伝統調味料と斬新な料理、突然現れるアート作品や楽器、トイレに飾られた民族楽器やレコードの数々。本棚に置かれた本の一冊一冊に至るまで、やすさんが切り開いてきた人生が、今のSYOKU-YABO農園になっている。
可能性だらけのこの場所が、これからどこへ向かうのか、どんな野望が生まれて叶うのか。それは開拓者・やすさん自身にもまだわからない。