ロック音楽にのめり込んでいたやすさんだが、高校で音楽の先生に手渡されたレコードがきっかけで、民族音楽に出会う。「貸してあげるから聴いてみなさい」と手渡されたのは、インドネシアの伝統音楽「ガムラン」のレコード。
「当時は『へえ、民族音楽っていうものがあるんだ』と思っていたくらいだったんだけど、後にどんどんハマっていって。音楽を売り物にしているのではなく、生活や文化のなかで作り上げられた純粋無垢な音楽に、もう恋こがれ……20代はいろんな国を旅しながら音楽や楽器を探して収集していたんだよね」
その時に集められた民族楽器は今、園内のトイレに飾られている。SYOKU-YABO農園を訪れたら必ず入ってみてほしい場所だ。楽器やレコードなどが飾られた不思議な空間は、トイレというより、やすさんの頭のなかのギャラリーのよう。
当時の自分のことを、やすさんは「エスニック小僧」と表現したが、聞いてみると想像以上だった。ネックレスをジャラジャラとつけ、つけられるだけの指輪やブレスレットなどをはめ、貝殻を縫い付けたお手製のシャツを着用。さらに、長い髪をココナッツとビーズで装飾したカチューシャでまとめていたんだとか。今のやすさんからはまったく想像がつかない姿に「写真はないんですか?」と聞いてみたけれど「全部捨てたよ」と言われてしまった。残念……。
エスニック小僧のやすさんは、20代の前半をインド雑貨や洋服などを扱う店のバイヤースタッフとして過ごした。海外の市場で仕入れをしたり、国内の問屋街で選んできた服を店に並べる仕事をしていたという。同時にアジア諸国やアメリカ、日本中を旅しながら考えるようになったのは「真実はどこにあるんだろう」ということ。
「とにかく“差別”ってものが嫌いでさ、一体なんなんだろうって思っていたんだよね。さまざまな社会問題にスポットライトが当たるたびに、国籍や人種で人を蔑視するような言動を聞いて、人間自体に幻滅したり。アジアを旅をして、いろいろな人たちの暮らしを見ながら疑問に思うこともたくさんあった」