「とにかく食べてみて」という気持ちが込められたSYOKU-YABO農園のランチメニューは、自家栽培した季節の野菜を使った「農園野菜定食」のみ。パッと見ただけでは、どのおかずも何の野菜をどう調理したものなのかちょっとわからない。甘いのか、しょっぱいのか、はたまた辛いのか。そこですかさず、やすさんやスタッフがメニューの説明をしてくれる。
「菊芋の味噌炒めは、ねさし味噌と郡上味噌という2種類を使っていて……」
聞いたことのない調味料や組み合わせが多く、その時点でもまだ味はわからない。が、期待は膨らむ。せっかくなので、取材に行った日のメニューを紹介したい。
・菊芋の味噌炒め(ねさし味噌・郡上味噌)
・白菜のレモン豆乳ソース(郡上味噌の溜まりを使用)
・人参のきんぴら(醤油と佐島のじゃこで味付け)
・梅酢に漬けたかつお菜と鶏ひき肉を炒め、上にオリジナルの香味をかけたもの
・紅大根のインド風漬物
・大根とネギのお味噌汁(麹味噌)
・長野県蓼科市で採れた無農薬のほかほかごはんの上に昆布と揚げたネギ
野菜はすべてSYOKU-YABO農園で作ったもので、調味料は無添加のものだ。青空の下にあるテーブルで、いただきます! と食べ始めると、じわっと体に沁みるような味わい、シャキシャキとした野菜の食感に箸が止まらなくなる。ただ、今まで食べたどんな料理とも少し違うために、表現するのが難しい。
「おっしゃる通り! 俺はそこしか狙ってないんだよね。 食べたことがありそうで、ないもの。みんなの脳内のデータベースにない、比較できない味を作り出すっていうのが、俺のテーマなんだ。ちょっと、ひねくれてるかな」
そこまでオリジナリティにこだわる理由は、SYOKU-YABO農園のスローガン「感性を鍛えろ」に込められている。
「野菜や調味料って、黒毛和牛とか伊勢海老みたいな食材に比べると、すごく地味。いい調味料を使っていても、見合う値段にしたら『なんでこんなに高いんだ』って思われちゃうくらい。でも、この野菜と調味料だからこそ、この味が出せるんだと気付いてほしい。それが『感性を鍛えろ』ってことなんだよね」
ちなみに、やすさんの家では“感性を鍛える遊び”がよくおこなわれている。例えば、お話を伺った翌日には、小学生のお子さんたちとの「チャーハン対決」が予定されていた。
「スーパーで自分の好きな材料を揃えて、オリジナルチャーハンを作るんだけど、当たり前にチャーシューやネギじゃダメ。“今まで食べたことのないチャーハン”をテーマにすると、子どもたちは一生懸命『なにが合うかな』って考える。そうやって主体的に作ってみる経験をさせてあげたい。俺はハンデとして、絶対にチャーハンに合わない具材を子どもたちが選ぶんだけど、前回は納豆とタコだったかな……意外とおいしくできちゃったんだけど」
野菜クズ料理屋さんの頃から、やすさんの“感性”は変わっていないのかもしれない。