突然ですが、漆器とはなんぞや!?
その質問にスパッと答えられる人は、現代の日本にどれくらいるだろう。
答えを言うと、漆器とは、木製の素地を「漆の木の樹液(漆液)」でコーティングしたものである。そこに金粉や色漆で装飾した蒔絵(まきえ)が入ることもある。
どうしてわざわざこんなことを書くのかといえば、実は土台がプラスチックだったり、コーティングがウレタン塗料だったりする「漆器ふう」「漆器もどき」も世の中に多く出回っているからだ。
我が家にもふたつの漆器のお椀がある。たぶん本物だと思う。なにしろ、結婚した時に義理の父がくれたものだから。赤と黒のこぶりなお椀で、毎日使っている。しかしながら、この漆器がどこで、どうやって作られているのかに関しては、まったく想像がつかない。それくらい自分の漆器と私は遠い存在なのだった。
そう気がついたのは、「めぐる」の取材のために郡山から磐越西線に揺られ、福島の会津若松駅に着く頃だった。ちなみに会津は、産業として興ってから数えても安土桃山時代から400年も続く漆器の産地である。
駅で迎えてくれたのは、貝沼航(かいぬまわたる)さん。2015年に「めぐる」という比較的新しい漆器ブランドを立ち上げた人である。
「こうして取材に来たわりに、漆器について何もわからないので恥ずかしいです」と告白すると、貝沼さんは楽しそうな表情になった。
「漆器のことが何もわからないって言う有緒さんみたいな人にこそ、見てもらいたい場所や会ってもらいたい人がたくさんいます! 漆器って謎が多いですよね」
そう言ってもらえて、ほっとする。 わー、よろしくお願いします!
最初に連れていってくれたのは、漆の木の植栽地だった。
傾斜を降りて窪んだ地にぽつん、ぽつんと細い木が生えている。あたりは少しじめっとしていて濃い草の香りが漂う。
お、これが漆の木なのか! そっか、山に自生しているわけじゃないのね。(日本の山に自生しているのは、ヤマウルシやツタウルシという木で漆液は採れない。)
考えてみれば当たり前のことを初めて知った瞬間だ。私はそれからの2日間で本当に多くのことを学ぶことになるのだった。