現在、「めぐる」の三つ組椀は、毎年12月15日から3月15日の受注期間にのみ注文を受け付ける。それも毎年300セット限定である。その3ヶ月の間にオーダーされた器は、おおよそ“とつきとおか”をかけて買った人のもとに届けられる。春分の日から製作がスタートして、ちょうど冬至やお正月の頃から使い始められる。
これもダイアログ・イン・ザ・ダークの志村季世恵さんとの会話から生まれたアイデアだった。
「ある時に、季世恵さんに『漆器ってどれくらいの期間で作られるの?』と聞かれて、『だいたい10ヶ月くらいです』と答えたら、『赤ちゃんが生まれるまでと一緒で十月十日だね』と言われたんです。わあ、それいいですね!ということになり、さっそく取り入れました」
それから、年に一度の受注期間にまとめて注文を受け、その年の秋に全国に届けるというサイクルに変更。年間の受注数を前もって把握することにより、良質でまとまった量の材料や漆の確保が可能になり、資金的にも余裕が生まれた。“適量・適速・適材”を掲げる「めぐる」の製作方法が除々に受け入れられ始め、限定300セットが毎年ほぼ完売するようになった。
とはいえ、注文した品を待つ身には、“とつきとおか”は長くなかろうか。いまや、一回クリックしたら多くの品物が翌日に届くという時代である。
そう質問を投げかけると、「それが皆さん、有り難いことに“とつきとおか”を楽しみに待ってくださる方ばかりです」と貝沼さん。そう話しながら、“とつきとおか”の間に「めぐる」からお客さまに届けられるという季節ごとのお便りを見せてくれた。そこには、職人さんの作業の様子や会津の季節の移り変わりが描かれている。
そうなのだ、「めぐる」は、ただお客さんをじっと待たせておくわけではない。毎月のメールや季節の葉書、動画などで器が作られる様子を丁寧に知らせ続ける。それにより、買う方も「いま一緒に器を育てているんだ」という実感を持ち、「待つ」が「ワクワク」に変わる。これは、ある意味で逆転の発想だろう。便利な時代だからこそ、時間がかかること自体が価値に変わるのだ。
そして、漆器づくりには、最後の行程として「枯らし」がある。
漆の塗膜は、塗ったあとに何年もかけてゆっくりと固まり続ける。時間がかかる分、出来上がったばかりの器は、最低でも1ヶ月は陰干ししなければならない。通常は工場で行われるその「枯らし」という工程を「めぐる」では自宅でするようにとお願いしている。それにより、最後は自分たちの手で漆器を育ててるんだ、という気持ちになる。これもまた逆転の発想だろう。自分で手をかけることによりもっと愛着が湧いてくる。
うーん、なるほど!!