宿場町として栄えた時代の建物や蔵が残る町の中心から、杉沢という最奥の集落へ。川沿いにいくつかの家が並ぶ集落の中で最も奥まった場所に、歴史を感じさせる見事な家屋があり、外壁に「暮らし考房」「ジャパンメープルワールド」という看板を掲げられていた。自動車1台が通れる程度の細い道は、この家のすぐ先で行き止まりになっていた。
屈強な山男とは真逆の、どちらかといえば小柄で温和そうな栗田和則さんが私を迎えてくれた。想像していたよりも年を召されていたが、山村で暮らすだけありとても健康そうに見える。
この地で生まれ育ったという栗田さんは、国内で数少ない、楓の樹液を採取する人。「メープルサップ」とも呼ばれる液体は天然の貴重な甘味であり、それを煮詰めて濃縮させたものが、私たちが知るところの「メープルシロップ」になる。
メープルプロダクト、イコール100%カナダ産という印象があまりにも強いためか、日本で製造者がいるという話を私は耳にしたことがなかった。そもそも、楓が生い茂る森林は国内にあるんだっけ? 試しにインターネットで「楓林(ふうりん)」と検索してみても、ヒットするのは全国各地の中華料理店ばかり。逆に言えば、そのくらい馴染みの薄い樹木ともいえるのだ。