早速、栗田さんにカエデの樹液を採るようになった理由を聞いてみた。
いわゆる団塊の世代に当たる栗田さんは、長らく林業に携わってきた。当時は杉や檜の植林が盛んだった時代。さらに言えば、金山町は、杉の植林が計画的に行われてきた藩政時代から林業が発展し、日本を代表する銘木として知られている「金山杉」の産地という土地柄。栗田さんも当たり前のように杉を植えた。
「若いころは広葉樹を切っては杉を植えていました。当時の立派な林業人とは、単純な言い方をすれば、『どれだけ人工林(杉や檜を植えた林)を持っているか? どれだけ立派な(太い)木を持っているか?』が評価基準だったんです。だから自分も一所懸命に杉を植林した。でも、ある時に疑問を感じたのです。『山を杉ばかりにしてよかったのだろうか?』と」。
いつしか広葉樹がほとんど存在しない、いびつな森林ばかりになっていた。その時40歳を迎えていた栗田さんは、杉を植えるのをやめた。