未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
207

山形の最奥で「楓糖」を作る メープルサップに情熱を注ぐ樹液師のはなし

文= Numa
写真= Numa
未知の細道 No.207 |11 April 2022
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#8楓糖入りコーヒーの味。

栗田さんは18年前から楓の植林をはじめた。今年も予定どおり苗木を植えれば、合計500本を植林することになる。面積にして1ヘクタールほど。それは少しでも、山からのいただきものに対する感謝と罪滅ぼしをしたいから。人工林を増やそうと躍起になっていた若かりしころ、「ここに杉を植えればよく育つはず」と広葉樹を見つけては切り倒していたのが、いつしか木を切ることをやめ、楓林が点在する100年先の山の姿を夢見るようになったのだ。

「山に入って樹液をいただくこと。自然への感謝、畏怖、または懺悔。そのすべてが、山と生きる人間の証であり、実感なんです」

家に帰ってから、栗田さんの楓糖をコーヒーに入れて味わってみた。ただ単純に甘いだけではなく、山に存在する生命のすべてを詰め合わせような、奥行きのある風味がゆっくりと口を刺激する。1年のわずかな時期にだけ収穫できる、貴重な自然の恵み。その背景で紡がれる山と樹液師との物語を垣間見ただけに、柔らかな甘味は、より深く私の心の隅々に広がっていった。

イタヤカエデの樹液がぽつりぽつりとしたたる。その様子を見つめていると、山とひとつになる感覚が訪れる。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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