未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
203

江戸時代から続く三つ星料亭で一汁三菜を作る 失われた東京の郷土料理を探しに

文= 吉川愛歩
写真= 吉川愛歩
未知の細道 No.203 |10 February 2022
この記事をはじめから読む

#9今日、何を食べるか

失われるのはなにも江戸時代のものだけではない。移り変わりが早く、使い捨てられ、壊され新しくなっていく街では、直近のものさえ残らない。ついこの間まで何かがあったはずの建物も、壊れてしまうともうなんの店だったか思い出せないのだ。

そんなことを考えながらあらためて今回のレシピを見返してみると、使う調味料は限られていて、手数もそう多くない。外国の料理と違って、見たこともない食材があるわけでもないし、味の想像がつかない料理でもない。

ただ、胡麻をすったり、こんにゃくを下茹でしてアク抜きしたり、蒸し器で蒸したり、それだけでなくその上にあんをかけたり、今の家庭で日々の献立に取り入れるには難しいと感じることもある。忙しい現代では、料理はおろか台所に立つことさえ大変になってきているのだ。

でも、こう考えてみたらどうだろう。

奮発しないと行けないような料亭の味も、作り方を覚えさえすればそれだけ手軽に食べることができる。普段からあれこれ手をかけるのは難しくても、ご馳走を用意したい日、少しゆとりがある日、誰かに食べさせたい日、労りたい日……、そういう日の一品に尽くすことくらいならできるかもしれない。

刺身で買ってきた鰤に、今日は醤油をかけるのではなく胡麻衣を作ってみよう。そんなふうにできたら、その一品があるだけでもきっと豊かな食卓になる。江戸の食文化が日常から消えてしまったとしても、その一端を知り、子どもたちに受け継いでいきたい。

『向付 胡麻鰤 人参甘酢 天山葵』

材料
鰤(刺身用サク)……15cmほど
黒胡麻……1カップ
みりん……大さじ1
酒……大さじ2
砂糖……大さじ1
人参……1/2本
甘酢……(酢1/2カップ・砂糖大さじ1/2・塩小さじ1/4)
わさび……適量

作り方
1. 鰤は、左側から切る。包丁を斜めに入れて分厚くスライスする。
2. 人参は柔らかくなるまで水から塩茹でして、甘酢に浸けておく。
3. 黒胡麻を粒がなくなるまで擦り、みりん、酒、砂糖を入れて練る。硬いようであれば、水を少し加えて鰤に絡めやすいようにする。
4. 3に鰤を絡めて器に盛り、甘酢人参とわさびを添える。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。