さて、続いては蒸し物。蕪と鯛の切り身を蒸して、薄葛あんをかけたものを作った。喰籠(じきろう/蓋付きの器のこと)ごと和せいろに入れて蒸し、あんをかけていただく。
八百善では、関東大震災で全焼したときに器もほとんど焼けてしまい、その後の東京大空襲では店の大部分が灰になるという惨憺たる目にあった。そのため、当時から残っているものはそう多くないが、代々の栗山善四郎が集めてきた器はどれも趣がある。
蒸し物を温めたら、あとは炊けたごはんに蕪の葉を混ぜて菜飯にし、一汁三菜の完成である。
光の差し込む食卓にひとつひとつ置き、静かにいただく時間は至福のときだ。分厚く切った新鮮な鰤に和えた胡麻衣はくっきりとした味に仕立て、反対におだしと野菜の旨みがきいたけんちん汁や薄葛あんはやさしく滋味深い味に仕上がっている。
日本料理は、作っている工程のなかで砂糖が多くてびっくりすることがあったり、しょっぱすぎるのではと感じることもあるのだが、だからこそ全体の調和がとれる。このバランスこそ、江戸から続く料理の基本だ。
食べたあとはひとつひとつのレシピについて十一代目が解説してくれ、分量や作り方をおさらいしてくれる。ただここで食べて満足するだけでなく、自宅できちんと作れるように、というのが十一代目の願いなのだそうだ。
「一緒に作ることで、覚えられるし、日々の献立にも活かしていただけると思うんです。そうやって八百善が培ってきたことを伝えていきたいですね」