神奈川県
出版不況が叫ばれて幾年月、いまや駅前に本屋がある町は少なくなっている。本屋さんへの逆風が吹き荒れるなかで、神奈川県東部でそれぞれ「冒険」と「生活」という真逆のテーマを軸とする2軒の書店がオープン。それぞれのユニークすぎる運営手法や哲学、そして意外な共通点を追う!
私がまだ子どもの頃、家から歩いて10歩のところに本屋があった。入り口のあたりに雑誌とベストセラーがあり、奥に漫画や文庫があるというごく普通の本屋だったが、そこは幼い私にとっては唯一無二の世界への扉そのものだった。
30年以上前のあの時代、町に本屋があるのは当たり前のことだったが、90年代から始まった出版不況により町の本屋の次々と閉店に追い込まれた。2022年のいま、駅前に本屋がある町は少なくなっている。
そんな逆風が吹き荒れるなかで、ふたつのユニークな本屋が開店した。
ひとつは冒険研究所書店で、もうひとつは本屋・生活綴方である。ふたつの店は、それぞれ「冒険」と「生活」という真逆のテーマを軸とする書店だが、その目指す世界は驚くほど似ているような気がするから不思議だ。
最初に降り立ったのは、新宿から電車で1時間ほどの小田急線桜ヶ丘駅だった。
駅を降り立つなり、面食らった。
無人の駅前ロータリーはひゅーーーと風が吹きぬけ、商店もドラッグストアとコンビニがたたずむだけ。うん、ベッドダウンだよね。それにしても静かだ……なんて静かなところなんだろう。
いやいや、そんなことはない! とばかりに、ロータリーに面した幅1メートルほどの細い階段に目を向けた。階段の入り口に掲げられた看板には冒険研究所書店とある。
階段を登り店内に入ると、静かな音楽が流れていて、書棚には冒険や旅、異国文化などに関する本やエッセイ、人文書、小説などがセンスよく並ぶ。その片隅で真っ赤なダウンジャケットを着てニコニコしている人が、この書店の店主であり冒険家の荻田泰永さんである。