未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
202

神奈川県

出版不況が叫ばれて幾年月、いまや駅前に本屋がある町は少なくなっている。本屋さんへの逆風が吹き荒れるなかで、神奈川県東部でそれぞれ「冒険」と「生活」という真逆のテーマを軸とする2軒の書店がオープン。それぞれのユニークすぎる運営手法や哲学、そして意外な共通点を追う!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供:荻田泰永、本屋・生活綴方

未知の細道 No.202 |25 January 2022
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
神奈川県

#1駅前に冒険がある町

私がまだ子どもの頃、家から歩いて10歩のところに本屋があった。入り口のあたりに雑誌とベストセラーがあり、奥に漫画や文庫があるというごく普通の本屋だったが、そこは幼い私にとっては唯一無二の世界への扉そのものだった。

30年以上前のあの時代、町に本屋があるのは当たり前のことだったが、90年代から始まった出版不況により町の本屋の次々と閉店に追い込まれた。2022年のいま、駅前に本屋がある町は少なくなっている。

そんな逆風が吹き荒れるなかで、ふたつのユニークな本屋が開店した。
ひとつは冒険研究所書店で、もうひとつは本屋・生活綴方である。ふたつの店は、それぞれ「冒険」と「生活」という真逆のテーマを軸とする書店だが、その目指す世界は驚くほど似ているような気がするから不思議だ。

最初に降り立ったのは、新宿から電車で1時間ほどの小田急線桜ヶ丘駅だった。
駅を降り立つなり、面食らった。
無人の駅前ロータリーはひゅーーーと風が吹きぬけ、商店もドラッグストアとコンビニがたたずむだけ。うん、ベッドダウンだよね。それにしても静かだ……なんて静かなところなんだろう。

いやいや、そんなことはない! とばかりに、ロータリーに面した幅1メートルほどの細い階段に目を向けた。階段の入り口に掲げられた看板には冒険研究所書店とある。

階段を登り店内に入ると、静かな音楽が流れていて、書棚には冒険や旅、異国文化などに関する本やエッセイ、人文書、小説などがセンスよく並ぶ。その片隅で真っ赤なダウンジャケットを着てニコニコしている人が、この書店の店主であり冒険家の荻田泰永さんである。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。